すべてはあの花のために⑥
「みんな、今日は帰った方がいいだろう」
「っ!? 紫蘭、さん。アタシたちは」
「今聞いて、パーティーを台無しにされては困る」
「お、俺たちはそんなこと」
「うん。ちゃんとわかってるよ。でも君たちにも秋蘭にも、少し時間が必要みたいだ」
そう言って、シランは息子に視線を移す。みんなももちろん動揺してることは間違いないが、一番そうなってるのは当事者であるアキラだ。
「今日は引いてくれるかな? きちんとこいつにも説明してやらないといけないんだ」
「……それって、アキは知らなかったってことっすよね」
「うん。そうだよ」
「でも、あいつは知ってたことですよね」
「うん。だって向こうから言ってきたんだからね」
「向こうって、誰ですか」
「茜くん。知りたい気持ちもわかるけど」
「教えて! あっくんのお父さん!」
「…………」
「お願いします。秋蘭のお父さん。それを聞いたらあたしたち、もう……帰りますから」
シランは、大きくため息をついて話す。
「みんなにも聞こえていただろう。二度手間がないように向こうは話していたよ」
アキラも今一度一緒に、父の言葉を待つ。
「縁談の話をしてくださったのは、もちろん薊様だ」
「でも」と、シランはすっと息を吸う。
「向こうからは、『娘さんが秋蘭に大変好意を抱いている』と伺っているよ」
みんなは、言葉を失っていた。
聞き間違いだと思いたかったそれが、事実だと突きつけられたからだ。
「(でもそれには理由がある。葵ちゃんの話を聞いていなければ、俺だって今でもわからないままだっただろう)」
先日のこと。彼女が自分に償いとして話してくれていた。
「(十年前のパーティーで来ていた『赤』が、秋蘭を好いたんだ)」
じゃないと彼女は自分に提携を結ぼうだなんて言ってこない。
「(秋蘭との婚姻は、葵ちゃんの決められた道だ。まあ秋蘭でなくても婚姻自体が決められた道なんだろう)」
だって彼女は、誰かの名をもらうことで『赤』に乗っ取られてしまうのだから。
でもただで乗っ取られる気はないらしいから、自分もそれを手伝うことにした。
「(だって、道明寺は……)」
今、一番『敵にまわしてはいけない』相手。
それを頼めるのは最早、皇ほどの地位を持つ者しかいない。