すべてはあの花のために⑥

sideシラン


 それは、先日のパーティーでのこと。


「……え」

「お父様? 皇くん、驚いてるようだわ? まだ紫蘭様からお話を伺ってないんだもの。当然だと思うけれど」

「そうだったな。まあ、明日その話をする予定ではあるから。善は急げと言うだろう?」

「そうですけれど」


 葵が父、アザミとそんな会話をしている中、アキラとそれから少し後ろにいたみんなは、驚きのあまり固まっている。


「どうしたんだい秋蘭くん。うちの娘じゃ不満かな?」

「え。……え? えー。え?」

「お父様、そんなこといきなり聞くのは野暮ですわ。きちんと皇くんが落ち着いてから話しましょう」

「詳しいことは私の方から話しておきますよ。きっと今とてつもなくパニックだと思うので」

「そうか。じゃあ皇くん。よろしく頼むよ」


 そして、道明寺の二人は去り際に。


「何せ、この婚姻は『娘が是非に』と言っていたんだからな。娘は君以外考えられないそうだ。どうしても君がいいと言ってきたんだからね。私はそんな娘の願いを叶えてやりたいんだがね」

「もうお父様。そういうのは『言わないこと』ですわ」

「それだけ好いているんだろう?」

「……まあ、好いてはいますけど。そういうことは『当人同士』で話をするべきです」

「そうかそうか。それなら明日にでも話せばいい。今日はあと挨拶回りをしてすぐに帰るからな」

「はい。そうですね。それでは行きましょう」


 わざと聞こえるように話し、葵は微笑み会釈をして去って行った。


「……秋蘭。そういうことだ」

「今、俺どんな顔してる?」

「『素直に喜んでいいものかどうか、よくわからない』って顔かな?」

「はは。流石父さん。よくわかってる」


 取り敢えず二人はみんなのところへ戻ったが。


「みんな。気持ちはわかるが、今から俺たちはまた挨拶回りに行って来なくちゃいけな」

「(アオイ、ちゃん。どういう、こと……)」

「(っ、どういうことよ……っ)」

「(……違うって。言ったじゃねえかっ)」

「(これが、例の運命なの? あおいチャン)」

「(言いたくなかったこと? 言えなかったこと? どっちだっ、あーちゃん)」

「(まだ隠し事してたの、あいつ)」

「(あっちゃん。昔から決まってた事って、もしかしてこのこと……?)」


 彼らもまた、困った表情のまま固まっていた。


「(秋蘭は……『説明しろ』ね、はいはい)」


 そんな視線を、さっきから父親であるシランに見せてくる。


< 3 / 251 >

この作品をシェア

pagetop