すべてはあの花のために⑥
sideシラン
それは、先日のパーティーでのこと。
「……え」
「お父様? 皇くん、驚いてるようだわ? まだ紫蘭様からお話を伺ってないんだもの。当然だと思うけれど」
「そうだったな。まあ、明日その話をする予定ではあるから。善は急げと言うだろう?」
「そうですけれど」
葵が父、アザミとそんな会話をしている中、アキラとそれから少し後ろにいたみんなは、驚きのあまり固まっている。
「どうしたんだい秋蘭くん。うちの娘じゃ不満かな?」
「え。……え? えー。え?」
「お父様、そんなこといきなり聞くのは野暮ですわ。きちんと皇くんが落ち着いてから話しましょう」
「詳しいことは私の方から話しておきますよ。きっと今とてつもなくパニックだと思うので」
「そうか。じゃあ皇くん。よろしく頼むよ」
そして、道明寺の二人は去り際に。
「何せ、この婚姻は『娘が是非に』と言っていたんだからな。娘は君以外考えられないそうだ。どうしても君がいいと言ってきたんだからね。私はそんな娘の願いを叶えてやりたいんだがね」
「もうお父様。そういうのは『言わないこと』ですわ」
「それだけ好いているんだろう?」
「……まあ、好いてはいますけど。そういうことは『当人同士』で話をするべきです」
「そうかそうか。それなら明日にでも話せばいい。今日はあと挨拶回りをしてすぐに帰るからな」
「はい。そうですね。それでは行きましょう」
わざと聞こえるように話し、葵は微笑み会釈をして去って行った。
「……秋蘭。そういうことだ」
「今、俺どんな顔してる?」
「『素直に喜んでいいものかどうか、よくわからない』って顔かな?」
「はは。流石父さん。よくわかってる」
取り敢えず二人はみんなのところへ戻ったが。
「みんな。気持ちはわかるが、今から俺たちはまた挨拶回りに行って来なくちゃいけな」
「(アオイ、ちゃん。どういう、こと……)」
「(っ、どういうことよ……っ)」
「(……違うって。言ったじゃねえかっ)」
「(これが、例の運命なの? あおいチャン)」
「(言いたくなかったこと? 言えなかったこと? どっちだっ、あーちゃん)」
「(まだ隠し事してたの、あいつ)」
「(あっちゃん。昔から決まってた事って、もしかしてこのこと……?)」
彼らもまた、困った表情のまま固まっていた。
「(秋蘭は……『説明しろ』ね、はいはい)」
そんな視線を、さっきから父親であるシランに見せてくる。