すべてはあの花のために⑥
「あおいちゃんから連絡があった時はビックリしたのよ。『何かあったら連絡して』とは言ったけれど、本当に何かあったのかしらって」
「あ。そうでした。……ごめんなさい。急にお邪魔してしまって」
「ううん。全然いいのよ。私もあなたに会えて嬉しいし。……こうやって、二人で話がしたかったのでしょう?」
「……はい。そうなんです。先生」
葵は抹茶ラテに口をつけ、左手に結ばれた白へ視線を落とす。
「実は、ちょっと困ったことがあったのは確かなんです」
コズエは姿勢を正し、真剣に葵を見つめる。
「みんなと。……喧嘩、しちゃって」
それが予想外だったのか、沈黙ではあったものの彼女の空気はもう、張り詰めてはいなかった。
「みんなって、みんな?」
「正確に言うと、カナデくんとツバサくん、アカネくんとオウリくん、チカくんとヒナタくんなんですけど……」
「ん? 皇くんと桜庭さんがいないけど……二人とは喧嘩してないの?」
「二人も、納得はしていないんです。みんなと同じで。……でも、わたしが何も言わないから、何も聞かないでいてくれて」
コズエは首を傾げながら、「説明してくれる?」と尋ねた。
「……あの。先生って、好きな人っています?」
「え。いきなりね」
「わたし、好きってよくわからなくて」
「……好きだった人なら、いるわ」
そう教えてくれたコズエに、葵は小さくお礼を言ったあと笑った。
「でも先生? わたしには婚約者候補の方がいるんです」
「………………」
「『わたし』はその方が好きで、家にお願いをして。やっと承認してもらえたんです」
「……あおいちゃん。あなた、矛盾してるわ」
「そうですよね。確かに矛盾してるんですけど、本当にそうなんです。間違いなどではなく」
コズエはもっと首を傾げてしまった。
「これ以上このことにはどうしても話すことなんてできなくて……いえ、話したくなくて、みんなを怒らせてしまったんです。先生みたいに『矛盾してるでしょ』って、みんなそう思ってます」
「あおいちゃん」
「“これ以上詳しくは話せないから、難しく伝えたらいいんじゃない?”って、キサちゃんにはそうアドバイスしてもらいました」
「ごめんなさい。全く以てわからないわ」
「すみません先生。でも、これ以上詳しくは話せないんです」