すべてはあの花のために⑥
俯く葵の頭を、アキラは撫でた。
「それじゃあアキラくん。そろそろわたし、行きますね」
「葵」
立ち上がろうとする葵の腕をアキラが掴む。
「……? はい。なんでしょう」
「大丈夫だよ」
「……!」
「わかっても言わないし、みんなもわかってくれる」
「……っ、はい。ありがとう。アキラくん」
葵は泣きそうな顔で笑いながら、理科室を後にした。
残ったアキラはというと……。
「ちゃんと赤色を結んだ意味を、葵はわかってるんだろうか……」
べっこう飴を作りながらそんなことを考えつつ。
「バレンタインの日は、誤解を生みやすくもあるんだ」
上手に出来た! と、出来立てほやほやのアメちゃんを舐める。
「俺が勝手に巻いただけ。でも他の奴らは、葵が『返事に左手に巻いてもらったんじゃないか』って思うからな」
それはそれで葵は大変だろうけど、あんなことがあったとて、葵を手放すつもりなど毛頭ない。たとえ婚約者候補であったとしても、葵の気持ちがないと意味がないのだ。
「……うん。完璧だ」
はてさて、それはみんなへの牽制のことなのか、それとも出来たべっこう飴のことなのか。
(※恐らくは後者だと思うけどね)
「仲直り、できるといいな。葵」
カードの一番下の文字をなぞって、アキラはそう呟いていた。