すべてはあの花のために⑥

 アキラは椅子を引いて葵に座るように促したが、本人はまたべっこう飴作成に取り掛かっていた。


「返事、わかってくれましたか?」

「お前の気持ちは間違いなくちゃんと伝わった」


 火加減を調節する姿はプロのようだが、ちょっと離れて見たら完全におバカちゃんだった。


「そっか。それはよかった」

「でも、あとはやっぱりよくわからなかった」

「そうですよね。意味わからなかったと思います」

「でも俺は、そんな不十分なお前も好きだよ」


 アキラは、やさしい顔で葵を見つめてくる。


「確かにわからなかった。でも、こんなにわかってやりたいと思ったのはお前が初めてだ」

「アキラくん……」

「ちゃんと知りたいんだ。お前のこと。いいよ。言えるまで俺は待つ。でもお前には時間が限られているから、その時は遠慮なく行かせてもらうよ。お前を俺は、絶対に助けてやるから」

「……ありがとう」


 葵はそう言って、アキラにあのカードを渡した。




「……リビアの国旗?」

「はは。確かに。真ん中に星と月があったらそうなるね」


 アキラは首を傾げているだけだ。
 実のところ、葵は難易度を下げることにした。昨日キサとユズにそう言われて、限界まで下げに下げた。


「アキラくん。今のわたしにはそれが限界なんです」

「……そうか」

「難しいかもしれません。でもきっとわかると思います」

「……ああ。そうだな」

「知って欲しくないですが、わかって欲しくもあります」

「……葵?」

「アキラくんならわかってくれるって、信じてます。わかっても変わらないって、信じてます」


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