すべてはあの花のために⑥

言ったじゃんかようー


 2年Sクラス。


「おはようござ――――!?!?」


 挨拶しようと思ったら、中から超特急でクラスメイトの五人に捕まった。担がれて教室を強制的に退出させられた。きっと生徒会室へと向かっているのだろう。


「ちょ!? み、みなさん授業はあ!?」

「菊ちゃんには言った!」

「今はそれよりも」

「アオイちゃんに聞きたいことが」

「あるからそれどころじゃなあい!」

「アンタも言わなきゃいけないことあるでしょ」


 そう言って、みんなはいろいろ言いたげな顔で睨んでくる。


「(えー。アキラくんには言ったじゃんかようー……)」


 まああれだけだったら不十分か。
 でも、言えるところまで話したつもりだ。


「(だって。言いたくないことであり、言えないことだ)」


 言いたくないのは『葵』のこと。言えないのは『赤』のこと。今回に限っては、話してまえば最後、葵自身のことも話すことになり、赤のこともバレてしまう。


「(そんなの、いやだ。みんなにだけは。嫌われたく、ない……っ)」


 赤のことをバレても、もしかしたらみんなは嫌わないかもしれない。


「(怪盗さん。どうかわたし自身の全ては知らないでっ。知らずに。呼んでくれさえすれば。もうわたしは十分ですっ)」


 自分自身のことは知って欲しくない。でも葵を呼ぶには、恐らく全てを知る必要がある。


「(わたしの考えは。きっと変わらない。だから呼ばれるまでずっと、わたしは決められた道を進むんですっ)」


 道明寺葵は、あの人たちの駒だ。
 もし、それが逸れるようなことがあれば……ッ。


「(……それだけは、したくないんですっ)」


 葵は担がれながら、首元のハートをぎゅっと握り締めた。


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