すべてはあの花のために⑥
「……わかんない」
顔の熱が引いた葵は、完全に行き詰まっていた。ただ一人、彼だけはどこにいるのか見当がつかなくて。でも時間は、刻々と迫ってくる。
「向こうは、わたしなんかに見つけて欲しくないのかもしれないけど」
手当たり次第、葵は超特急で学校内を捜し回る。
「(っ、はあ。っ、どこ……? どこにいるの、ヒナタくん……!)」
コンピューター室にもいなかった。音楽室にも(※カナデの第二候補)、美術室にも(※アカネの第二候補)、家庭科室にも(※アキラの、実は第一候補だったけど、本当のところ甘い匂いに誘われた葵でした)。
まさかと思って職員室に行ったら、先生方に「頑張れよ~」って応援されてしまったし(※キクには緑と朱色のリボンを結んだチョコを渡しておいた)、理事長室に行ったら行ったでマ〇カに引き摺り込まれそうになったので水色チョコを渡してあげたけど。
「(……まさか生徒会室……?)」
確かにあそこなら鍵がばっちり掛けられるし、誰にも見つからないだろう。でも職員室をちらっと見たら、生徒会室の鍵は残っていた。
だったら理事長室の隣かと思って部屋に入ったけれど、そこにもいなかった。
「(……っ、どこにいるの。ひなたくん……)」
葵は不意に、大校舎を見上げた。
『――倒れていたんですよ』
ちりっとした小さな頭痛とともに、記憶が呼び戻される。ぽっかりと空いた空白。
「(……あ、そこ……?)」
どうしてそう思ったのかはわからない。でも、何故か勝手に足がそちらへ向かっていく。
どうして自分の足は、そこを目指して動いていっているんだろう。なんで。そこに行こうとしているのだろう。
「(……わからない。思い出せない)」
それでも足は、自然と駆け足になっていく。
「……あ」
その時ちょうど、ポスターを貼っていた掲示板のところを通った。
「……赤い、封筒……」
『無地の人なんてまわりにいらっしゃらなくて。もしかして一人だけなのかと』
「(何を、わたしは忘れてしまったのだろう)」
『それに、少し特別な感じがしました』
「(無地なんて作ってなかった。それに、……特別?)」
『先程東條さんは『ペアの人と会って始めて何が書かれてるかわかる』と仰っていましたでしょう?』
「(だって。……そう、作った)」
『でも私のカードは、何と書かれているかすぐにわかったので』
「(……なに、これ。わたし、知らない……)」
葵は、痛む頭を押さえながら、目的の場所へと到着した。