すべてはあの花のために⑦
『……時にあおいちゃんや』
『……? なんですか? ひのちゃんや?』
『わ! いいわね! あの人に呼ばれるより断然いい!』
『(乗るんじゃなかった……)』
『あなた、名字を呼んでくれたら消えなくて済むんでしょう?』
『……名前だから、全部、かな……?』
『だったら順番に行きましょうか! ア行から!』
『は、果てしない……』
『だったらもうちょっとヒント教えて~……。【顔を出したお日様】じゃいまいちピンとこないんだものー……』
口を突き出して拗ねているヒイノが可愛くて、葵は指でつんつんとその口を突く。
『とくべつ……』
『……? なあに?』
『あ。……なんでもない、です。……えほん。か……』
『……??』
葵は、その辺にあった裏紙に絵を描いていく。
『ひいのさん! これがわたしの名前!』
『え。……あおいちゃん。もうちょっと絵を教えておけばよかったわ……』
実は絵だけはそんなに上達しなかったりする。
『これ! これなの!』
『わ、わかったわ? 頑張って解読すればいいのね?』
『はい! そう! ……これがー、ひょっこりかおをだしたおひさま~』
『え。……赤い物体にしか見えない……』
『これがー、わたしのお花!』
『……? あおいちゃんのお花?』
『そうなんです! たぶんなんですけど……ひっこぬいてごめんなさいぃぃ……』
『え!? い、いきなりどうしたの……!?』
落ち込んだ葵を必死に宥める。
『だっ。だってえ~……』
『あらあら(なんだか年相応だわ)』
それがちょっと嬉しかったりするけれど、流石に今、重要なとこなのに泣かれたら困る。
『どうしたのあおいちゃん。いきなり泣いて』
『……わたしが。ひっこぬいたぁー……』
『そうね? でも、もう一人のあおいちゃんなんでしょう?』
『っ、わたしが。ほとんど、ぬいたの……っ』
『え? うそ……?!』
こればっかりは信じられなかった。葵はだって、ものを大切にできる子だ。
『……っ。お花、さかなかったっ。わたしがっ。……ぬいたからあぁ……』
『……あおいちゃんにとって、嫌なことがあったのね』
そう言うと、葵の体がぴくっと揺れる。
『……。これ。わたしのお花……』
『(あおいちゃん……)』
だって、あれからだ。小さな彼女がおかしくなったのは。
『(しかもあの日は…………でも。あおいちゃんは外にいたはずよ)』
心当たりがないこともないが、でもそんなことはないと思いたい。
『(……いいえ。これは、絶対言えないわ)』
ぐっとヒイノは堪え、無理矢理話題を変えた葵の話を聞くことにした。
『これ……』
『うん。……これは? なんのお花かしら』
『……わたしが。ひっこぬいたお花……』
『え……?』
『わからないです。……でも、たぶんそうだと思う。咲いたとこ、見てないから。ハッキリわかんないけど……』
『(その花って……)』
『……この花、お日さまがないと、ダメなお花』
『……ええ。確かにそうね』
『わたしの名前。この花。……かお、出した。お日さま。です』
『うん。……十分よ? あおいちゃん。それ以上言って、あなたが消えたりなんかしたら嫌だから』
ぎゅっとやさしく、ほんの少し冷たくなってしまった葵のことを、ヒイノが温かく包み込む。
『……話してくれて、ありがとう。あおいちゃん』
『……ひいのっ、さん……っ』
『絶対に助けてあげるわ? あなたのこと。すべてから』
『……? ……はい。ありがとう。えほん、楽しみにしてますね』
そう言って、葵は涙を流しながら眠ってしまった。
『……はあ。これは、わたしが描き直さないといけないわね』
ヒイノは片手で葵を抱き、先程の紙を拾う。
『……大丈夫よ。絶対に助けるわ』
ヒイノは紙を握り締め、瞳に強い意志を宿した。