すべてはあの花のために⑦

 それから赤は、薬の開発に明け暮れていた。


『にしても、一発目の試作ですでに反応を出さないようにさせるなど、流石としか言いようがないな』

『…………』

『ほら~。ちゃんと食べるのよ~? あなたはとっても賢くって強くって優秀なんだもの。これからしっかりここを支えていってもらわないとね~』

『……あの』

『ん? なんだ?』

『二人には、お子さんはいないんですか』

『ん~? いるわよ~? 男の子』

『……彼にも、同じようなことをさせているんですか』

『まさか、そんなことさせるわけないじゃないか』

『……実の息子だからですか』

『それもあるけどー、あの子体が弱いのよお』

『それに頭も弱い。ここを支えて行くには不十分すぎるからな』

『…………』

『ほらー、あなたはしっかり食べて、早く大人になるのよ~?』


 実の息子なんか、見たことがなかった。常に食事をともにするのは、いつも赤しかいなかった。


『(……わたしよりも。その子の方がつらいじゃないかっ……)』


 謝りたかった。別にこいつらなんていらなかったけど、実の親にこんな扱いをされていることの悲しさを、自分たちが一番よく知っている。


『……あの、お願いが、あるんだけど』

『ん? なんだ、言ってみなさい』


 また条件を付けてやろうと、目がそう訴えてきている。


『……その。息子さんと、ご飯を一緒に食べてあげてほしい』

『『は?』』

『わたしはちゃんと仕事はこなす。約束する。それしか道がないんだから』

『……それで?』

『ちゃんと自分たちの子どもと話してください。体が弱いなら強くしてあげてください。……頭が弱い? それなら強くしてやってください。親に無視されることほど、嫌われることほど、子どもにとってつらいことなんてない』

『『…………』』

『お願いします! ちゃんと息子さんを愛してあげてください! 愛情を、注いであげてください……!』


 赤は頭を下げて、そう懇願した。


『……そう、だな』

『……えっ』


 ハッキリ言って、素直に頷いてくれるなんて思わなかった。


『……そう。愛情、ね』

『(よかった。これで……)』


 安心したのも束の間、ほんの少しでも彼らの心にそんな感情があって嬉しいとか、思った自分がバカだった。


『あいつも、ちゃんと使ってやらないとな』

『そうね~? 使えるようにしてあげましょうか』


 彼らは、愉しげに嗤うだけだ。


『お前の言う通りにしよう。これからここを支えていく人間に、あいつも仕立て上げるとするか』

『……っ、わたしはっ、そんなこと……!』

『愛情という名の鞭を、たっくさん注いであげることにするわ?』

『……っ、ちょ。まってよ……!』

『ちなみに、自分が駒だということを、あいつもきちんとわかっているぞ』

『……っ、え……』

『だから、自分なんか役に立てないからって。切り捨ててって言ったのはあの子だもの?』

『(そんなの。言わされたに決まってるじゃないか)』

『そしてあいつは、私たちのことが大嫌いだからな』

『え』

『あなたがそうしろって言ったからって。あの子にも言っておくわ? あはっ! どんどん嫌われ者になるわね? あーたのしっ』


 そう言って二人は席を立ち、部屋を出て行こうとする。


『精々、あいつに好かれるように努力することだな』

『ええ。今後のために、……ね?』


 赤は、膝から崩れ落ちた。


『……。おやが。きらい……』


 そうか。あんな親なら、嫌いになって当然か。


『……解放。されてたのか。今は……』


 それなのに、また自分のせいで駒になってしまう。彼らの都合のいい道具になってしまう。


『……っ。こんなつもりじゃ。なかったのに……っ』


 なんて浅はかだったのだろう。また、犠牲者を増やしてしまった。


『……。もう。わたしは何もしない方がいいのかな……』


 だって、何をしたって悪い方向にしか働かない。


『……。ごめん。なさい……』


 言ったって、やってしまったことに変わりはない。でも、謝らずにはいられなかった。


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