すべてはあの花のために⑦

ざ ねいむ おぶ ざ ふらわー


 葵に伝えることは、極力控えた。賢い子だから、言わなくても何となく察しはつくだろう。
 案の定日記を読んで、勘のいい葵はある時から塞ぎ込んでしまった。困り果てたアザミたちは、仕様がなく気分転換にあるところへ連れて行った。


『ほら。お前が咲かせられなかった花がいっぱいある。……しばらく外出を許すから、少し落ち着きなさい。そして早く勉強に取り掛かりなさい』


 赤になる時間も少ないまま、ただ葵のまま泣かれるのが一番時間の無駄だと思ったのだ。
 赤の時には仕事を。葵の時には政治などを学ばされていた。


『……。もう。こんなことっ……』


 したくなんてなかった。


『お花さんお花さん。……わたしっ。とっても悪い子なんです……っ』


 ここへ来る度、たくさんの花に囲まれた葵は、涙の雫をたくさんの花びらの上に落としていた。
 言葉はもちろん返ってこない。でも花は、人の言葉や気持ちをわかってくれるのだと教えてもらった。


『たくさんたくさん。……悪いこといっぱいしちゃったのっ』


 言葉にしたって、許されるわけじゃない。泣いてるからって許してもらえない。
 でも、言葉に出さずには。涙を流さずにはいられなかった。


『どうしてっ。わたしは……っ』


 また、お気に入りの花畑に来た葵は、涙を流しながら、花に話を聞いてもらっていた。


『どうしたの?』

『え……?』


 すとんと。葵の心の奥に、やわらかい声が届く。
 ころころと。涙が流れているのも構わず、葵は声の聞こえた方へ顔を上げた。


『(……おひさま。みたいな子……)』


 太陽を背にそこに立っていたのは、とても可愛らしい少女だった。


『いつもここで泣いてるでしょ』


 そう言って少女は葵の横に座る。


『なんで泣いてるのかな? って、いっつも思ってた』

『……。っ……』

『かなしそうで、つらそうだったから。今日は声、がんばってかけてみた』

『…………』

『ねえ? なんで泣いてるの?』


 こんなこと、人には絶対に言えなかった。もう、誰も信じられなかった。
 ただ時々声を漏らして、葵はずっと泣いていた。
 でもそんな葵の横に、少女はずっとついていてくれた。


『……どうして。なにもきかないの……?』

『あ。やっと『え』以外の声が聞けた』

『……?』

『声。ちゃんと聞いたのはじめて。きれいな声』


 そんなこと、今まで言われたことなんてなかったので、どうしたらいいのかわからなかった。


『言いたくないんでしょ?』

『え……?』

『『え』以外にもしゃべってよ』

『ご、ごめんっ……』


 少女は、葵の横でずっと作っていた白詰草の冠を葵の頭に乗せた。


『うん。うまくできた。なかなかのでき』


 葵は乗っかってるので、よくは見えなかった。


『取っちゃダメ』

『えー……』


 そう言われてしょんぼりしたけど、なんだかちょっと楽しかった。


『だって、言えないんでしょ?』

『え?』


 完全に向こうのペースに狂わされてしまう。でも、そんなのもどこか楽しい。


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