すべてはあの花のために⑦

わたしの家来になりませんかっ!?


『(……だいぶ、進んだ。か)』


 葵が完全に塞ぎ込んでしまったせいで、赤は仕事に一日中かり出されていた。


『(あったかくなってきた。……もうすぐ、春が来る)』


 赤の開発は進み、ある程度のパターンを作っておくことにした。

 まずは、新たに作れと言われた記憶消去と操作の方。
 一つは、肌身離さず身につけているものを使い、記憶を消して操作できるようなもの。


『(これはまだ完成ではないな。まだまだ不安定だ)』


 記憶を一気に消してしまう場合があった。それでは人として、使い物にならない。完全に壊れてしまう。
 もう一つは、何らかの方法で霧状にした、薬物ではない微量の薬を鼻孔から吸い込み、一時の間の記憶を消すもの。


『(これはまあ、ほぼ完成と言うべきか)』


 短期間の記憶の消去ならば、体にも負担はかからない。ただ、霧状にしてすぐじゃないと効果が出ないというのが難点だった。


『(でも、これぐらいで十分だ。これ以上やったら壊れる)』


 そして、薬の方。


『(反応は、前々から出なくなったけど……)』


 やっぱりどうしても依存性が高く、壊れやすい。


『(どうにかして、これを極力抑えていかないと)』


 もう、誰かが消えるなんて嫌だ。

 それから断ることもできず、放棄することもできず。少しずつ赤は時間を掛け、開発をしていった。


『葵。話をしよう』


 そう言われ、赤はアザミの仕事部屋に呼び出されていた。


『どうしても、皇に縁談の話は断られ続けている』


 赤が彼を欲しいと言ってから、アザミは何度も交渉をし続けているらしい。


『すまんなあ。お前の誕生日プレゼントは、まだかかりそうだ』


 いらないと言っても無駄だろう。結局は皇も飲み込むつもりなのだから。


『お前は、どうしたらいいと思う? どうしても早くお前にプレゼントをやりたい。いつも頑張ってるお前へのご褒美だ』


 そんなこと言ってても、目の奥は嗤っている。彼との縁談が決まれば、皇も手に入れたようなものだ。


『……いつもみたいに脅せば』

『それがダメなんだ。あそこは成り上がってから調子に乗ってるからな。脅しなど効かないようだ』

『……こどもも?』

『ん?』

『前、やってたじゃん。子ども使えば? そしたら親は上手く転がせるでしょ』

『……ふ。ふふはははは! そうだな! そうだったな! 流石だ!』


 嗤いながら、仕事に戻るように言われた赤は、部屋を出て行ったが……。


『……っ、くっそ……』


 ただただ、悔し涙を堪えるしか、できなかった。


 ポキっと根元から倒された花は…………


                  蘭
                  と
                  百
                  合
                  の
                  花。


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