すべてはあの花のために⑦

守ります。名も知らない誰かを


『(ふう……。ま、イヤーカフはこんなもんか)』


 でも一つにはできなかったので、段階を踏んで慣らす必要があった。


『(初めは一番効果の低いものから。徐々にレベルを上げていけば、壊れることはないでしょう)』


 今できるのはここまで。
 葵には、これが人を操作するものとだけ、伝えておいた。記憶を消去してまでするなんてそんなこと、葵が知る必要はないと思ったから。
 もう少ししたら、これを使って【ある記憶だけ】消せるようなものを作っておこう。


『(……きっといつか、葵が使うだろうから)』


 問題は薬の方だ。あれはやっぱり怖かった。
 開発は途中で終わらされた。もういいと、今はそれの生産ばかりだ。仕分けられたものを、ただ作るだけ。


『(依存性も下がらないまま。記憶障害も酷いままなのに)』


 でも一つ、トリガーポイントを越えれば、後遺症もなく通常の生活に戻れることがわかった。


『(流産させちゃった人。あの人はきっと時間がかかりそう……)』


 それからそのトリガーポイントを、あの噴霧型の薬物でない方にも付けることに成功した。


『(何かを忘れたとしても、その直前に見たもの、聞いたもの、したことを思い出せるようにしておけば)』


 こちらは後遺症はなく、上手くいきそうだった。


『(いいね、トリガーポイント。他にも付けられるかやってみよう)』


 そうしていると、部屋の戸が叩かれた。


『捗っているか』

『……まあ』


 そう返事をすると、にやりとムカつく嗤い方をする。


『もう一人がいいものを拾ってきたからな、お前の仕事も相当捗っているだろう』

『(こんなこと、シントはしなくていいのに……)』


 手を染めるのは、自分だけで十分だ。


『まあそれはいいとしてだ。……お前に話があってな』


 そう言って見せてきたのは、皇家の写真と、血を大事にしている二つの家の写真。
 そして初めて見る、五人家族だった(、、、)家の写真。


『お前のおかげで、今あそこはガタガタだ。それに運よくもう一人があそこの長男を拾ってくるんだ。……プレゼントはもうすぐ用意できそうだ』

『…………』

『そこで、最後の交渉の決定打だ。さあどうする』

『……壊れた父親に、何を交渉するって言うの』

『壊れたからこそ上手く使えるだろう?』

『……まともな判断はできない』

『そうだな』

『……これ』


 そう言って、赤は出来たイヤーカフ数個をアザミに渡す。


『段階を踏まえてしたら、壊れずに操れると思う』

『ほう?』

『徐々に慣らしていくから時間は掛かるけど、彼が今次期当主候補になったんだろうから、彼を使えば皇も落とせる』

『ふふふふははは!』


 こんなこと、口になんか出したくもない。でも、もう言わざるを得ない。
 アザミは嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 徐々に枯らしていった花は…………


                  蘭
                  の
                  花。


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