すべてはあの花のために⑦
『(まさか本当に選ばれるなんて)』
次の日登校したら、掲示板に新生徒会の発表の中に、自分の名前(仮)があった。
『(断らないとダメだ。絶対)』
帰って仕事をしないといけないし、日記も疎かにはできない。そして何より……。
『(そんな、長い時間を一緒にいる特定の人を作っちゃダメだ)』
初めは、そう思ってた。
でも、あんな動画を見せられて、道明寺の評判を落としてしまったら……。
『(そんなことどうでもいいけど、仮面ではない姿を見られて、それが家の耳に入りでもしたら……)』
それだけは、もう絶対にさせない。
『そんなのいちいち言わなくていいよ。あんたさ、この写真ばらまかれたい? ばらまかれたくないよね? てことで、雑用係。やれ』
完全に脅しだったけど。でも、しっかり仮面は着けておかないとって。じゃないと、またって。……この頃は、思ってた。
『だから、お前に近付いて『もう友達だろ?』って気付いて欲しかったんだよ。お前はもう、とっくにオレらと友達なんだってさ』
でも、気づかない間に。もう、友達ができていて。
『(……うれしい……)』
本当に、嬉しかった。
でも、それは恐怖でしかなかった。……また、同じようなことになってしまったら、と。
『(……でも、決めたじゃないか。ルニちゃんに言ってきたじゃないか)』
何がなんでも守るって。そう、決意したじゃないか。
そんな新たにできた友達、守るべき友達のことを見ていて、違和感を感じた。それが全員だったもんだから、彼らのことをよく知っているであろう理事長に、【本当の意図】を聞きに行った。
『わたしが生徒会に選ばれた理由を、教えていただけないでしょうか』
『(流石としか言いようがない、か……)』
理事長は葵に、場を与えたかった。苦しそうで囚われている彼女に、素が出せる場所を。
理事長が用意したのは生徒会。ここなら、家も気づかないだろうし。思う存分笑って欲しい。泣いて欲しい。彼女の本当の気持ちが出せる場所を、作ってあげたかった。
『私と桜李は従兄弟でね、たくさんのことを我慢してきた彼からそんな話を聞けたことが嬉しかったんだよ。君の前ではもう、桜李はいろんな顔しているみたいだし』
それも間違いじゃない。
まさか従兄弟から言われるとは思わなかったし、あの子がすぐに心を許すなんて思わなかったから。
『理事長を疑っているわけではないんです。確かに先程教えていただいた理由も本当だろうと思います。でも、そうだとしても彼らは【欠けている】んだ。それは彼らを知っているようで知らないわたしだから気付いたのかもしれない……いや、違いますね。わたしだから気が付いたんだ』
『(……そうだね。頭のいい、よく気づく君だからこそ、みんなの【欠けた部分】に気づけたんだと思うよ)』
でも、その根本は君自身。だから、この場を作った。
君の居場所を。そして、……君に罪を償う機会を。
『なら、そこまでわかっていて、何故ここまで来たのかな』
彼女の悲しい選択に。理事の仮面が剥がれ落ちそうだった。
『海棠実さん。あなたの願いを聞きに』
やっぱりわかってたのか。この場を君に任せたかったことを。
『それじゃあ言おう道明寺葵さん。ぼくの願いはたった一つだ』
――さあ。ここからは賭けだ。