すべてはあの花のために⑦
『……どうか、彼らの憂いを晴らしてあげて欲しい』
そして、君の心を巣くう闇も晴らしてあげて欲しい。
『きっと君ならやってくれるだろう。いや、恐らく君にしかできないことだ。気づいてやってくれ。そしてみんなのことを助けてやってくれ』
そうすれば、この願いを叶え終わった頃には。君のまわりには、枯らしたはずの花たちが、また集まるだろうから。
【願い】を叶えることで、君の時間は恐らく減っていくだろう。――だから、賭けなんだ。
君が消えるのが早いか。君が願いを叶えるのが早いか。
……恐らくは後者だろうと思うよ。何がなんでも叶えてくれる。そう思ってる。
『(君は恐らく、それぐらいのことをしないと、罪を償えてる……なんて思わないだろうからね)』
でも、これはあくまで葵の気持ちだ。彼女の気持ちが少しでも軽くなればいいと思った。
『(再び咲いた花たちが、今度は君のことを守ってくれるからね)』
彼女を変えられるのは、……その犠牲者たちだけなのだから。
――――――…………
――――……
その時は、キクがいたから言えなかった。だから数日経って、もう一度葵は理事長に会いに行った。
『理事長。願いを叶える代わり、わたしの願いも叶えていただけないでしょうか』
『……? うん。何? 言ってみて?』
『もし、わたしの時間がなくなったら、卒業できないかもしれません』
『………………』
『条件はなんでも構いません。それをクリアしたら、高校卒業と同等の証明を戴けないでしょうか』
『それは、家のためかい?』
『否定はしません。でも、わたしが。わたし自身が。学校を。……みんなと同じ学校を卒業したって証が、ただ欲しいんです』
『……そっか』
『それから、みんなをどこか遠くへ。道明寺の手の届かないところで、守ってあげてください』
『葵ちゃん……』
『……最後。もし、わたしの時間がなくなって、赤に乗っ取られたその時は――――』
その条件になど、頷けるはずもなかった。
『お願いします、理事長。……もう。わたしを解放して欲しいんです』
『……あおい、ちゃん……』
『……っ、それじゃあ、失礼します。また、願いを叶える度きちんと報告に来るので。……その時にお返事を聞かせてください』
葵が理事長室を退出したあと。
『(……信じてる。ぼくは、君を。みんなを。……信じているよ)』
それから、葵が願いを叶える日々が始まったのだ――。