すべてはあの花のために⑦
四十九章 すべては君のために
ねえ。おしえてよ
12月某日。クリスマスパーティー。停電が起こり、レンを探していた葵が辿り着いたのは英語教室。
ガラガラッと大きな音を立てて扉を開けた教室にいたのは、倒れるように眠っているレンの姿と、雲一つない綺麗な夜空にただ一つぽつんと浮かぶ月を見上げていた、ヒナタの姿。
ここから先は、葵の抜け落ちてしまった記憶の話。
たくさんの想いが溢れ出るお話。
「レンくん! いたら返事、を…………――っ!?」
「……………………」
「…………え。な、んで…………」
「……………………」
「なんでヒナタくんがこんなところにいるのっ…………!?」
「……………………」
「お願いっ! 答えてよっ…………!」
倒れてるレンには目もくれなかった。気持ちよさそうに寝てたからいっかって。頭の中で、そう思ったから。
それよりも、体育館にいるはずの彼がなんでこんなところにいるのかとか。なんで何も言ってくれないのかとか。聞きたいことがたくさんあった。
葵は、こっちを向いてくれないヒナタの服をぎゅっと掴む。
「……ねえ。おしえてよ……。ひなたくん……」
あの時あの教室で、彼が赤い封筒を持っていたのを見ていたけれど。
みんなの中に、裏切り者がいるなんて思いたくなかった。何かの間違いだって。……そう、思いたかった。
「……昔はさ?」
「……。むかし……?」
「そう。むかし」
やっと振り向いてくれたヒナタは、申し訳なさそうに笑いながら、葵の頬に手を伸ばす。
「……また。泣いてる」
「…………。っ……」
触れ方が、壊れ物を扱うようにやさしくて。くすぐったくて。
「昔は、一緒に月を見ることはなかったよね」
「……。え……?」
そう聞いて。確信した。
「遅くまでは一緒にいられなかったから、いつも見るのは夕日まで。月は、明るい時も見られてる時あったけど、いつも見てたのは太陽だった」
「……。ひなた。くん……」
アキラに見せてもらったアルバムに写っていた後ろ姿は、やっぱり……。
そう思っていたら、ヒナタが自分の耳をそっと塞いだ。
「また泣いてるの? ハナ」
「――……!!」
そう言って、ふっとやさしく笑うんだ。
「聞かない振り、してあげるから。言葉にしなよ」
「……。ひなた……。くん……」
「泣き終わったら、よくできましたって。また抱き締めてあげるよ?」
「……っ。……るに。ちゃん……っ」
「うん。……ハナ、久し振り」
そう言って、目元の涙をやさしく拭ってくれるんだ。