すべてはあの花のために⑦

 それからキクの、相変わらずだらっとした朝のHRも終わり、葵たちは理事長室へと向かっていた。


「……ふわあ」

「あれ? アオイちゃんまた欠伸ー?」

「あ。……ちょっと昨日、あまり眠れなかったので」

「……何か、あったのか」

「アキラくん違いますよー。心配性ですね」

「だったら何があったんだよ」


 心配そうにツバサもそう聞いてくる。
 それにつられてみんなも同じような顔をしてくるので、葵は微笑んだ。


「ただ、今日の発表のこと。どうなるんだろうと思って。またみんなと一緒だったらいいなとか。もし違っても、楽しい時間を過ごせたらいいなとか。……そんなことを考えていたら、あっという間に朝が来てしまったんです」

「あおいチャン……」

「だから今、またこうして選ばれて嬉しく思ってます。頑張らなきゃいけないなって」

「……うん。頑張ろ? あっちゃん。楽しい思い出、たくさん作るんでしょ?」

「はい。そうですね」


 そうこうしているうちに、あっという間に理事長室へと到着した。


「(……去年は確か、開いたらみんなでマ○カしてたな……)」


 ああ、あの頃が本当に懐かしい。


「(時間とか、……巻き戻せたらいいのに)」


 そして、……やり直しが。できたらいいのに。


「(そしたらみんな……。わたしだって……)」


 そんなこと、できるはずもない。理屈でちゃんと、わかってる。


「(でも、そうしたいと思わずにはいられないくらい、わたしは罪を背負いすぎて生きてきた……)」


 ……生きて、きたのだろうか。本当に。


「(……この一年は、ちゃんと『生きた』って実感があった。だから本当に幸せだったんだから……)」


 開けたらまた、みんなが笑ってくれてたらいいな。開けたらまた、おかしなメンバーたちが、バカなことをしてればいいのにな。開けたらまた、自分のことを嫌わずにいてくれる人たちだといいな。


「理事長、失礼致します」


 葵が先頭に立ち、3年生組は、葵が開けた扉の中へ、入って行った。


「やあ。待っていたよ、みんな」


 そこには、理事長の仮面をきちんと着けていたその人と。


「おっせーよ」


 ツンデレではなくなった、今年も副会長として選出されたチカゼ。


「あ! やっときたあー!」


 もう、きちんと声が出るようになった、副会長になったオウリと。


「くあ~……」


 なんだか眠たそうにしている、同じく副会長のヒナタ。


「ほい。お前さんたち、何飲むんだ~」


 それから、相も変わらずだらだらなキク。


「先生は座っていてください。私がしますので」


 そして、新しいメンバー。葵と庶務をするレンと。


「私も手伝うわ。月雪くん」


 新しい2年Sクラスの担任になった、コズエがいた。


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