すべてはあの花のために⑦

「……どう、して……?」


 長い沈黙を、キサの震える声が破る。


「2年生の皆さんはご存じないかと思うのですが、……最近わたし、遅れて学校に来ていまして」

「そう、だね。あおいチャン、最近よく遅れて来てた」

「でもさ、昨日も今日もちゃんと来てたじゃん? それと学校休むの、何が関係あるのー?」

「……ご心配をかけたくなくて言えなかったのですが。あまり、体調がよくないんです」

「――!?!?」


 隣にいたツバサは、急いで葵の手を掴む。やっぱりその手は冷たすぎて、冬の海のようだった。


「……ッ、これが原因か」

「ツバサくん……」


 悔しそうに顔を歪めながら、ツバサは自分の体温を分けるように葵の手を握る。


「……実は、流石に体調がおかしいわたしを家も気にしていまして、少し学校を休んで療養することに」

「俺との結婚を白紙に戻したのは……」

「結婚をする前に、一度体調を戻してから、という結論にも至ったためです」

「葵……」

「本当に、こんな形で報告することになってしまい申し訳ありません」


 悲しい話に、その場の空気も重くなる。


「そうか。だから、私はあおいさんが療養から帰ってくるまでの穴埋め、ということになるんでしょうか」

「もうちょっと言い方が。せめて中継ぎぐらいで……」

「え? でも、帰ってこられるんでしょう?」

「その、つもりですが。……いつになるのかはわからないので」


 また悲しい話に、どんよりとした空気が流れる。


「……いつだよ」

「チカくん……」

「あーちゃん? いつから学校を休むの?」

「ハッキリとはまだ。ただ、体調が体調なだけに、理事長とは事前にお話しをしていました。もしわたしがまた選ばれるようなことがあれば、次に投票が高かった人も生徒会メンバーに入れて欲しいと」

「大体の時期とかは? ……あっちゃん急にそんなこと言うんだもん。悲しいよ」

「わたしも、急に決まったことなので驚いてはいるんですが、元気になって、早くみんなに会いたいので頑張ります。なので時期は……そうですね。『桜が散るまで』には。きちんと、最後までお仕事したいなと」

「そんなっ。アオイちゃん、そんなになってるのに、仕事なんてさせられないよー……」

「帰ってきた時にもうみんながいない。……それは嫌だったんです。折角またこうしてみんなと一緒に生徒会ができるなら、ちゃんと思い出を作りたいなって」


 みんなは、押し黙ってしまった。


「それじゃあみんな。最初の思い出作りに、隣の部屋に行って、御馳走でも食べよう」


 理事長がそう言ってくれたおかげで、みんな重い腰を上げてぞろぞろと動き出すが……。


「(あー。ま、そうですよね~……)」


 みんなは、納得していない様子で睨みつけてくる。
 でもその中の数人は、どこかゲームを楽しんでいるかのように、薄笑いを浮かべていた。


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