すべてはあの花のために⑦
叫んだ葵はそのまま大きな音を立ててながら、保健室を出て行った。
「……っ。はっ。……っぅ」
葵は、走りながら独りになれるところを探した。
「(……。り。じちょ……。しつ。にっ……)」
行こうと思ったら、曲がり角で腕を掴まれる。
「っ、いやっ……!」
「何が嫌なんですか」
「……!! れん。く……」
そこには、先程自分のリボンを解いてきたレンが。
「やっと見つけましたよ」
「っ。はな。して」
しかし彼が放してくれるはずもなく、レンは葵を引き摺って階段を降りていく。一番下まで降りて、そのまま階段下の見えない隙間に葵を引き込んだ。
「っ、いや……っ。!」
「は? こっちだって嫌です」
覗き込んでこないとわからないところへ、レンは葵の体をすっぽりと隠す。
「何泣いているんですか」
「……。ないて。ません」
「いや泣いてるでしょう。現にぼろぼろ流れてるんですけど」
「……。うぅぅ~っ……」
レンは大きなため息をついて、腰を下ろし、葵の頭を胸に引き寄せる。
「……っ!? ……。はな。し……」
「泣き止んだら、放してあげてもいいです」
「…………」
「黙っていても泣いているのはわかります」
「……。っぅぅ~……」
「……つらいなら、泣けばいいんですよ」
「……な。んで……」
「言ったでしょう。私の前では、泣いてもいいと」
それはまだ、彼がやさしかった頃の話だ。
「泣ける内に泣いておかないと、皆さんに迷惑……いえ、不審に思われるんじゃないんですか」
「……」
「何も聞いてません。何も聞きません。……だから今は、思う存分泣いてしまえばいいと思いますよ」
葵はぐっと。レンの服を掴み、彼の胸に顔を埋める。
「……。っ、いやだっ……」
「………………」
「いやだっ。……いやだ。いや、だっ……」
「………………」
「……。っ、ごめん……。なさい……」
「………………」
「……。ごめんっ。……ごめんっ。……うぅぅ……」
「……はあ。クリーニング、出した方がよさそうですね……」
葵の背中を、レンは泣き止むまで撫でてくれていた。
「……ほんと。どっちが……」
「……? れん。く……」
「何でもありませんよ」
そっと、頭を撫でるように引き寄せられる。微かに、あたたかい熱が寄せられた気がした。