すべてはあの花のために⑦
みんなも楽しみに待っていた
次の日の朝、レンと葵は各クラスの委員長にその案を渡した。放課後にまた回収に行く予定だ。
「どのプランになるか、とても楽しみですね」
「そうですね。……それではまた、放課後に」
別れ際、葵の体がぐらりと傾く。
「はあ。……別に、渡しに行くだけなんですから、私がさっさと渡したのに」
「……すみ、ません……」
体を支えてもらった葵は離れようとしたけど、ぐっと抱き抱えられ身動きが取れない。
「あ、の。レンくん……?」
「……無理しなくていいですから、今日は早退なさったらどうですか」
「え! いえ、それでは放課後の回収は誰が行くんです……!」
「回収だけなら誰だってできるでしょう。皆さんに頼めばいいじゃないですか」
「そんな。わたしの仕事ですから、みんなにお願いするわけには……」
「それぐらいいいと言ってるんです。どれだけ頑固なんですか。頑固親父ですかあなた」
「……!」
「ほら。今日は帰りましょう。それからちゃんと寝てください。でないとまた、誰かさんに保健室へ連れて行かれますよ」
「!? な、なんで知って」
「それが『仕事』ですから。……じゃ、帰りますよ」
そしてレンは、葵を背中に負ぶう。
「……!? は、はなし」
「うるさくするなら舌引っこ抜きます」
葵は慌てて口元を押さえる。
「あ、……歩けますよ?」
「また倒れそうになったら困るので、このままでいいです」
「荷物……」
「取り敢えず一旦あなたの教室に行きますから。荷物持って、ついでに皆さんに言ってから帰りましょう」
「……レンくんの……」
「殆ど何も入ってないので、お気になさらず」
「ごめんなさいっ……」
「……取り敢えず、帰りましょう」
そのあとレンは葵のクラスへ行き、生徒会のみんなに仕事を頼むことにした。荷物もキサから預かり学校を出る。
「……? レンくん。迎えは?」
「彼らもその他の仕事があって無理でしょうから、そのまま帰ります」
「で、でも。重くないですか……?」
「いいです。これも仕事なんで」
「……すみません。レンくん」
「いいえ」
葵は、目の前で揺れる、銀色の髪を見つめていた。
「……レンくん」
こてんと、葵は彼の肩に頭を乗せる。
「……なんですか」
疲れてしまったのか、彼の息が少し詰まった。
「……れんくん」
「だから、なんですかあおいさん」
「ありがとう」
「……」
「……。っ、ごめん。なさいっ……」
「…………」
「……。っ。……うぅー……」
また、葵の瞳から涙が溢れる。レンは一度葵の体を背負い直し、スピードを緩めて歩いた。
「今頃、何だって言うんですか」
「……。っ、……」
「泣いたって許すわけないでしょ」
「……うぅ~……」
「はあ……」
レンは、いつも曲がる道を通り過ぎる。
「……? れん。くん……?」
「泣き止まないと、知りませんよ」
「……はいっ。あり。がとうっ……」
葵は、広い背中に小さく話しかける。
「れんくんは。ずっと。わたしのこと。見ててくれたんですか……?」
「は?」
「ち。ちがう……?」
「……そりゃ、仕事ですから」
「そ、か。……ありがとう。ございます」
「…………」
「……っ。かい、とうさん……。っ」
「…………」
「だれか。わたしを。呼んでくれないかな……」
「…………」
「……。だ、れか。よんでっ。……おねがいっ」
「はあ。……いつになったら帰れるんですか」
葵が泣き止むまで、その日はなかなか家に帰れなかった。