すべてはあの花のために⑦

 ――扉が閉まった瞬間、葵の体が大きく傾ぐ。


「っ、はあ。はあっ……」


 葵のお腹に腕を回し、倒れるのをレンが防ぐ。


「はあ。……無理しすぎですよ。日曜日から一睡もしてないじゃないですか」


 レンはまた、葵を負ぶって校内を歩く。


「心配。掛けた、……な。くて。みんなとたくさん。いた。……て」

「日本語下手くそですね」

「す。すみません……」


 もう、立っているのも限界だった葵は、ぐったりレンに体重を預けた。


「……ありがとう。れん、くん」

「お礼を言われる筋合いは全然ないんですが。……ま、こちらこそありがとうと、言うべきでしょうか」


 レンは、葵の見えないところでにやりと笑う。


「あなた、大嘘つきですね」

「………………」

「帰ってくる? 無理無理。連絡して? 絶対できませんよ」

「………………」

「ここまで来るのに苦労しました。……やっと私も解放されるんですね。よかったよかった」


 そして、裏門で待っていた車の中に乗り込み、葵はもう一度校舎を見上げた。



「ごめんね。みんな。……もう『またね』は言えないんだ……っ」



 小さくそう呟いた葵の目からは、たくさんの透明な涙が零れ落ちていました。
 みんなときちんと、仮面無しで最後は話ができた葵は、療養という名の檻に閉じ込められる道を、選んだのです。


< 90 / 245 >

この作品をシェア

pagetop