すべてはあの花のために⑦
 ――――――…………
 ――――……


 葵は、頭から冷たい水をかぶっていた。


「(冷たいとも、感じない。感覚だって。もうないに等しい……)」


 わかるのは、温かさだけだ。他はもう。……なにもわからない。


「……手紙。みんなに届けられてよかった。レンくんに、ありがとうって言っておかないと……」


 休みに入ってすぐ、荷物が処分されてしまう前にいろんな人からもらった写真を、手紙と一緒に送っていた。生徒会メンバーだけではなく、トーマにもシントにも。キクにも理事長にも。たくさんの思い出が詰まったものを、あの人たちに触らせたくはなかったのだ。


「……大丈夫。ちゃんと。覚えてる。みんなの思い出。……わたしの。心の中に。ちゃんとあるよ……」


 そっと、葵は自分の胸に手を置く。その時、指先にハートが当たった。


「あ。……そっか。これ……と。あと。一つだけ。……宝物。これだけは。守ってもらったんだ……」


 キュッと蛇口を止め、体を拭いてから部屋へと戻る。
 そして、ベッドの下に隠していた宝箱を取り出した。


「れんくんに。これだけは。わたしが消えるまで処分しないでって。言ったんだよね……」


 蓋を開ける。そこから出てきたのは、ガラスのネックレス、ハイビスカス、真っ白の薔薇、真っ白のストール、文化祭の写真、桂からもらったお守り、修旅のお土産とTシャツとブレスレット、橙の薔薇、手袋、口紅、夢の国で作ったちいさな小瓶、ホワイトデーにもらったたくさんの薔薇、高校卒業見込み証明書、しおり、電源が入らない押し花カバーのスマホ。

 葵は、それにそっと触れた後、大事にまたベッドの下に収めた。

 卒業見込みは、理事長に特別に作ってもらっていた。というのも、願いを叶えたら、学校に通えなくなっても卒業をしてもらえるよう手配を……葵の方から願いを言っていたからだ。

 それでも、条件はあった。
 全教科を90点以上取ること。3年最初の登校日、キクに付き合ってもらって、葵は一人テストを行っていた。採点をしてもらったが、全教科満点の文句なし。解答用紙と引き替えに書類をもらっていた。

 キクの、……あの時の悔しそうな顔が忘れられない。
 自分だって悔しい。でも、もう何もかもバレたんだ。全部。……全部ぜんぶ。

 もう。何もかも遅いんだから――――……。


 ――――――…………
 ――――……

< 94 / 245 >

この作品をシェア

pagetop