すべてはあの花のために⑦
3月31日。時刻は21時を回った頃。
葵の部屋の内線に、義父アザミから言付かった家政婦から電話が入った。
『今すぐ、書斎まで来なさい』
書斎と言っても、アザミにとっての仕事部屋。『赤』ではなく『葵』を呼ぶことに、嫌な予感を感じていた。でも、そんな予感さえも、勘のいい葵は当ててしまったのだ。
「お父様。失礼致します」
葵はゆっくり、地獄へ通じる扉へと手を掛けた。
「……え。……どう。して。あなたが……」
そこにいたのは、この場にいるはずがない人たちだった。
「早かったな。愚かなお前にもきちんと紹介しておくべきだと思ってな」
にやりと嗤う、義父アザミ。
「あら? やっと来たのねえお馬鹿さん」
嘲笑う、義母のエリカ。そして……。
「どうも~。やっと自己紹介できますよお。道明寺葵さん?」
「……! あ、なたは……」
「ぼくの名前は、日下部薫って言うのでえ。以後、お見知りおきを?」
体育祭と文化祭で会った男。
「あおいちゃんバレンタインのチョコ美味しかったわ。ご馳走様」
「……あまみや。せんせい……?」
みんなの担任の先生。コズエ。
「こんばんはあおいさん。クリスマスパーティー、とても有意義でした」
「……なんで。れんくんが、ここに……」
何度も支えてもらったレン。最後に――。
「どうもあおいさん。クリスマスデート、とっても楽しかったですね! ようやくきちんと自己紹介できて嬉しいです」
「……あい。くん……?」
確認するように呟く葵に、彼は見たことがないほど口角を上げて嗤う。
「は~いそうですよー? お馬鹿なあおいさん。改めて自己紹介しますね。俺の名前は、道明寺藍。あなたとは違う、道明寺の正真正銘の子供です」
衝撃が強すぎて、言葉にならなかった。
「あ~! 忘れてました! もう一人いますね? こちら側の人間が。心当たり、あるんじゃないですか~?」
……でも彼は、もうしないって。
「残念でした~。彼はこのゲームをとても楽しんでいらっしゃいましたから。彼はとってもいい動きをしてくれましたよお。九条日向さん、ですね~」
……葵はもう。立っていられなかった。