あなたの記憶が寝てる間に~鉄壁の貴公子は艶麗の女帝を甘やかしたい~
疑う彼の目から逃げるように真っ青な空を見上げ空気を吸い込んだ。


◇◇


「藍沢チーフ!広報から内線です」

金子さんが今日何度目かの苦笑い。

「はぁ~分かりました」

仕事に戻った私は皆んなに挨拶回りと感謝の言葉を伝えて回った。
中原さんも精神的なストレスから解放されて笑顔で接客をしてる。
何とか年末年始を終えて今度は春に向けてのイベントを模索中。

「はい、藍沢です」

『やっと捕まえたー!ねぇこの間の資料見てくれた?』

パソコンの広報からと言うか、

「千世さん、無理ですって。若い人に頼んで下さいよ」

メールと電話の相手は…あの円城 千世さん。

彼女は一月から蘇芳本社に戻りバリバリ仕事をしてる。
大人しいイメージと違いグイグイ来る性格で人は見かけに寄らない。

『えーっ!四月のパンフの表紙困ってるんだって…お願い』

表紙に過去3回出てる私では新鮮味もない。
でも、困るとかお願いとか一番私が気になるワード。
それなら…

「じゃあ、これどうですか?」

一つの提案を彼女にすると『それ良い!!』と二つ返事でOKをくれた。


「何で私達が一緒なのよ」

不貞腐れた北館チーフの奏。

「恥ずかしいんですけど…」

真面目で照れ屋の南館チーフの花凛。

「副社長!見てないで仕事して下さい!」

ちょっと小うるさいけどしっかり者の西館チーフの桜子。

「皆さん!こっち向いて下さい!!ほら笑って!これも仕事ですよー」

最初は愚痴ってた三人も“仕事”と言われれば自ずとムードが変わる。
カメラのシャッター音に緊張しながらも奏が「記念になるね」とボソッと呟いた。

「ですね。でも今は最高の笑顔を見せてやりましょう!」

桜子の鼓舞にそれぞれの気持ちで頷いた。


春が来る。
私達チーフの状況も変わる。
でもお客様は変わらず来店してくれる。

約400年続く老舗の蘇芳百貨店は変わらない笑顔でお客様をお迎え致します。
それぞれチーフの思いを乗せて…
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