すべてはあの花のために❽

「その覚悟が聞けてよかった。……全部話すわ、あの子のこと」

「え。話してなかったんですか」

「こればっかりは、相当な覚悟が必要だ」

「……あの子はね。あるものを、なくしてしまったの」

「……お日様?」

「「え?」」

「え? ……あの、自分のお日様をなくしたんだって、聞いたんですけど……」

「……ええ、そうね。その通りよ。知っていたなら話は早いわ」

「そ、そうなんですか……?」

「あおいは、もう一つの人格が生まれる時、君が言うお日様を奪われてしまったんだ」

「……もしかして、海での話?」

「ええ。……自分の命を助けてもらう代わりに、その人格にお日様を引き換えにされたみたい」

「(……それを取られたから、花はもう咲かないって言ったのか……)」

「そのお日様というのは、あの子の【名字】のこと」

「名字……」

「だから、あいつの下の名前は、葵で間違いはない」

「葵……」

「一刻も早く、あの子の名前を見つけ出してあげて欲しいの」

「え」

「名字は誰も知らないんだ。あいつも、……言えない」

「ど、どういうことですか」


 てっきり、捨てられたから。もう一人に取られたから。だから、お日様をなくしたんだって……。
 ……そういう、単純な話じゃないのか? 


「……これが、あの子の【名前】よ」


 そう言ってヒイノが、何かが描かれた紙を出してきた。


「……はい?」


 そこに描かれていたのは……たぶん【山】と。それから、そこから登ってるか沈んでるかはわからないけれど【太陽】と。あと、こちらを向いていない【花】だった。


「……わかってるんじゃないんですか。ソウデスカ」

「……もっと酷かったわ。あおいちゃんに、もうちょっと絵を教えておけばよかった」

「ひなたくん! ひのちゃんは頑張った!」

「はあ……」


 もう一度よく見てみた。


「太陽……。山……。…………これは」

「ああ。これは」

「ヒマワリ、ですよね。ハナの花って聞きました」

「よかったわ。わかってくれてっ……」

「……でも、こっち向いてないですよね」

「ああ。向日葵は、太陽がある方を向くからな」

「あおいちゃんはこう言ってたわ。これは『顔を出したお日様』。それからこっちは『わたしの花』って」

「……顔を出した。……ひまわり。……あおい……」


 その絵をよく見たけど、他に仕掛けとかはないみたいだった。
 本当にこれだけ。これがハナの、……あおいの名前。


「どうか急いで欲しいの、ひなたくん」

「……さっきもそう言ってましたけど」

「あの子には、……あおいには時間がないんだ」

「……!! ……どういう、ことですか。まだ何か隠してるんですか」


 また二人はお互い顔を見合わせる。でも、その顔が自分も苦しくなってしまうほど、とてもつらそうなものだった。


「……あおいちゃんに残された時間は、大人になるまで」

「え」

「無理をすればするほど、その時間は削られていく」

「……ちょ。意味が、わからない……」

「……それか、あの子の名字が決まってしまうまで」

「または契約違反をして、自分の名前を誰かに言ってしまった時。残り時間がなくなったら、あおいは……」


 ――もう一人に体を奪われて消える。


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