【警告】決して、この動画を探してはいけません!
◆第六話『祭り当日』
2022年8月15日(月) 午前/祖母の家
「社の中を撮影する計画、今夜決行する」
裕也が満足そうに腕を組み、タケシも同意するように頷く。
私は、思わず深いため息をついた。
「……本当にやるの?」
「当たり前だろ。ここまで来たら、やるしかねぇ」
タケシがスマホをいじりながら、軽い調子で言う。
「ほら、昨日の映像に映ってた“あれ”をちゃんと確かめないと」
——ここまで言い出したら、私が反対しても聞かないだろう。
——バレて私まで怒られなければいいけど。
2022年8月15日(月) 夕方/安高神社
空が赤く染まり始める頃、神社の境内は祭りの準備で慌ただしくなっていた。
太鼓の音が響き、神輿が組み立てられていく。
神社の入口には、村人たちが並べた屋台が並び、祭りの雰囲気を演出している。
けれど、私はその光景を見ても、どこか違和感を拭えなかった。
(……やっぱり、みんな、笑ってない。)
村人たちは祭りの準備をしているはずなのに、どこか緊張した様子だった。
まるで、何かに怯えているように。
私はスマホを取り出し、動画を撮影する。
<夏美の記録>
――――
2022年8月15日(月) 17:45/安高村の祭りの準備
撮影者:山下夏美
カメラ越しに、社の前を通る村人たちの様子を映す。
その視線は、どこか落ち着きがなく、誰も社の方を見ようとはしなかった。
――――
「……ねえ、これ、普通の祭りじゃないよね?」
私の呟きに、裕也がニヤリと笑う。
「そりゃそうだろ」
「こういう緊張感のある祭りの方が、ガチっぽくて面白いじゃん」
私は、またもため息をついた。
(本当に、このまま撮影して大丈夫なのかな……)
日が沈み、提灯の灯りが境内をぼんやりと照らす頃——
祭りが始まった。
大きな太鼓の音が響き渡り、神輿がゆっくりと担ぎ上げられる。
村人たちは、神輿を中心に列をなし、境内を静かに歩き始めた。
掛け声もない。歓声もない。
ただ、粛々とした雰囲気のまま、祭りは進行していく。
<夏美の記録>
――――
2022年8月15日(月) 19:30/安高村の祭り開始
撮影者:山下夏美
「2022年8月15日 午後7時30分。祭りが始まりました」
カメラは、静かに進む神輿を捉えている。
その周りで、村人たちが一様に神妙な顔をして歩く様子も映る。
そして、巫女が現れた。
――――
巫女が社へと向かう。
巫女役の少女は、純白の衣装を身にまとい、静かに社の前に立つ。
その顔には、白い布が巻かれていた。
——目隠し。
(……本当に目を隠すんだ。)
私は、先日、裕也が見せてくれた掲示板の書き込みを思い出した。
――――
掲示板投稿(投稿日不明)
【スレッドタイトル】安高村の祭り、知ってるやついる?
【匿名E】:「何かを見ちゃいけないんじゃなくて、巫女が“何かを見ないために”目隠しをしてるって聞いたけど」
――――
(じゃあ、やっぱり社の中には“見てはいけないもの”がいるの……?)
巫女が、一歩、また一歩と社の中へ入っていく。
——バタンッ!
社の扉が閉ざされる音が響いた。
その瞬間、村人たちは皆、一斉に頭を垂れた。
まるで、何かを見ないようにするかのように。
(……なにこれ)
背中を、嫌な冷気が駆け抜けた。
<夏美の記録>
――――
2022年8月15日(月) 19:45/巫女が社に入る
撮影者:山下夏美
「2022年8月15日 午後7時45分。巫女が社に入り、扉が閉じられました」
カメラが、閉ざされた社の扉を捉えている。
そして、頭を垂れる村人たち。
――――
2022年8月15日(月) 20時15分/計画実行
「今がチャンスだ」
社の扉が閉ざされ、村人たちが本殿の方へ移動し始めた頃——
裕也が、小声で囁いた。
「行くぞ」
「……今?」
「そうだ。今しかない」
私は、思わず周囲を見渡す。
(……確かに、社の周りには人がいない。)
祭りの中心は、すでに神輿や本殿へと移っている。
裕也とタケシは、そっと身を屈め、社の裏手へと回り込んだ。
私は、心臓がバクバクと鳴るのを感じながら、二人の後を追う。
——やっぱり、やめた方がいい。
そう思いながらも、私はカメラを回し続けた。
<夏美の記録>
――――
2022年8月15日(月) 20:15/社の裏手
撮影者:山下夏美
「2022年8月15日 午後8時15分。社の裏手に移動中」
映像は、暗闇の中を進む裕也とタケシの背中を映している。
そして、その時————「キッキッキッ……」
微かに、不気味な音が聞こえた。
三人の足が止まる。
――――
私は、息を呑んだ。
(……今の、何?)
裕也とタケシも、動きを止めている。
「……聞こえたか?」
タケシが小声で言う。
「……ああ」
裕也がゆっくりと頷いた。
「……社の中からだ」
私たちは、暗闇の中でじっと立ち尽くした。
社の扉の向こう。
目隠しをした巫女がいるはずの場所。
そこから——
「キッキッキッ……」
奇妙な鳴き声が響いていた。