すべてはあの花のために❾
出ていったオレはというと……。
『(え。……なんで今、オレ……)』
大切な人。そう口に出した時、思い浮かんだのはたった一人。
家族でもない。社員たちでもない。
……どうして今。彼女しか、オレの頭の中に無かったんだ……?
口元を抑えながら、オレは彼女の監視なんてせずにさっさと帰宅した。
『(新歓、か……)』
あれから、まともに彼女の監視なんてしなかった。ただ、彼女の姿が見えたら、勝手に目が追ってしまったけれど。
『(どうしたというんだ、オレは……)』
監視は仕事だ。これをしないとオレの家族たちは……。
でも、できなかった。ただでさえもう、ずっと彼女のことを見てきて……。酷いことを、もうしたくはなかった。
『(あれ。いない……)』
新歓には生徒会メンバーが必ず参加するはずだ。確かに、一緒に来たはずなのに……。
『(どこに、行ってしまったんだ……)』
監視が目的じゃない。ただ、心が寂しくて。彼女を勝手に捜してしまっていた。
でも、再び彼女が現れたのは最終日のオリエンテーションの途中だった。
姿を見るだけで、心が満たされた。……ほんと、なんだというのか。
『(もう。限界だ……)』
流石にはしゃぎすぎた。こういう遊びって桜じゃ全然しないし、実家でもさせてくれなくて、学校の友達とぐらいしかやったことなかったけど。久し振りにやったら張り切ってしまった。足も遅ければ体力もないくせに。
だから帰りの新幹線は、みんなは元気が有り余ってるのか楽しかった新歓の感想とかを言ってたけど、オレはもう半分夢の世界で。すっぽり頭にフードを被せて、瞳を閉じた。
『新歓、すっごい楽しかったですっ!』
『そう言ってもらえて、本当によかった』
『(ん……?)』
生徒会の誰かが来たのか、みんなが感想を言ってた。
『ドロケイ! あんな大人数でやるの初めてでした!』
『ははっ。逆にしてたら驚きですよ』
『(……だ、れ……)』
聞いたことある声。聞くだけで、胸がいっぱいになる声。
『あ。……すみません。ブランケットをお借りできますでしょうか』
そんな声が聞こえてすぐ、体があたたかくてやさしい何かに包まれた。
『そいつも楽しかったみたいですよ!』
『そうなんですね。では、楽しみすぎて疲れてしまったのでしょうか』
『はいっ! 多分そうだと思います』
『そうですか。……それは、本当に嬉しい限りです』
ふんわりと、頭を撫でられている感触がする。
『(こんなことされたの。ほんと、いつぶりだろう……)』
父も母も仕事に明け暮れ、こんなことをしてくれた記憶なんてない。
誰がこんなことをしてくれているんだろう。もう、目蓋が開かないくらい眠くて眠くて……。
『楽しんでもらえてよかった。まだまだ着きそうにないので、ゆっくり眠ってくださいね。……おやすみなさい』
やさしい声に誘われて、オレはそのまま夢の世界に旅立った。
『……んっ』
けど、どうやら隣の奴も爆睡してたみたいで、こっちにもたれ掛かってきた重たさで目が覚めた。
『あ。ユッキー起きたか?』
何故かオレはそう呼ばれるようになってしまった。たまにツッキーって言う奴もいるから、できれば統一して欲しい。
『ん……。あれ。これ、どうしたんだ?』
毛布なんて、掛けた覚えなんてない。
『(でも確か寝る前に誰かが掛けてくれたような……。朧気だけど)』
『ああそれな? 道明寺先輩が掛けて行ってくれたぞ』
『え』
道明寺……って。……彼女が?
『そうそう~。ツッキーの頭よしよししてたー! いっつも大人っぽいのに、ツッキーすっごい子どもっぽくてかわいくって、あたし惚れ――』
前半しか耳に入ってこなかったけど……でも。あれって夢じゃ。