すべてはあの花のために❾
実践
クリスマスパーティーはなんと全校生徒が参加することになった。もちろん先生方もだ。みんな驚きを隠せなかったけど。
「(……拡散してって言ったら、なんとかなるもんだな)」
きっとあいつが喜ぶだろうと思って、なるべく多くの人に参加をしてもらおうと思った。だから、理事長にもめっちゃ頼んだりもしたんだけど。
「(まさか全員になるとは。これは予想外)」
これから大変になるねと、みんなで話し合った。
次の日の昼前。カエデさんから連絡が入った。
『アオイちゃん来たぞ』
「はい。ありがとうございます」
『他にすることは』
「いえ。大丈夫です。あとはこっちでなんとかなると思うので」
『何をする気だ』
「え? だから、スイッチをポチッと……」
『……また、教えてくれ』
「はい。ありがとうございます」
さあて。あれを使いますか。
「レンがもう王子になってくれるって言ったから、オレはあいつが助かるなら、どんな罪にだって手を汚すよ」
これは、スイッチ一つ押せばこのスマホにマイクで拾った音が流れてくるし、録音だってできる優れものだ。
「さてさてあおいちゃん。どこまでシランさんに喋ってくれるかなー」
きっと、理事長やシントさんを除いて、彼が一番道明寺を、あいつのことを知っている。
オレは、もう躊躇わなかった。もう、あいつを助ける王子はこちら側だ。
スマホのアプリを開き、音拾&録音ボタンを押した。
『お迎え感謝致しますカエデさん』
『いえ。トーマ様から、酷い方向音痴だと伺っておりますので』
「(え。方向音痴だったんだ)」
意図せず最初から知らない情報ゲット。
「(……ごめんねあおい。でも、もうオレは決めたから)」
それから、あいつが皇を出るまで、オレは会話を盗聴した。
『お気遣いはとても嬉しいのですが、わたしはこのままで。カエデさんも、どうぞお構いなく』
どうやらあいつはたとえ皇でも、仮面は外さないらしい。
『お前は覚えてないみたいだけど、誕生日パーティーに葵ちゃんを連れて道明寺さんがいらしたからだよ。ぷぷっ』
「(アキくん。どれだけ自分の誕生日パーティーなのに出るの嫌だったの……)」
でも、やっぱりアキくんはあいつのことを覚えていなかったようだ。シランさんの話を疑ってたわけじゃない。でも確証を得た。
『謝って済むようなことではないと、重々わかっています。大事な御子息を道明寺の執事にするなんて。……きっと、命に代えても償いきれません』
「(……そうか。シランさんやアキくん、カエデさんは救えたかもしれないけど、シントさんは現在進行形で犠牲になってる)」
あいつが今日ここへ来た一番の目的は、シントさんを縛っていることへの謝罪だ。
「(だからシランさんは、オレにシントさんのことを聞いてきたのか)」
きっと彼はもう、彼女の目的に気が付いていたんだろう。だから……。
『そうだね。『やってくれたな』と、聞いた時は思ったよ』
「(……そういうこと)」
事情なんて知っているから、彼女を責めたりはしないけど。わざとそう言っておけば、あいつも罪の意識で自白してくと。
「(はは。流石は皇当主)」
アキくんは、この人よりもサクラさんの方の血を受け継いでるんだろうなって思う。ちょっと、いやだいぶ天然入ってるから。
「(見た目は母親譲りかもしれないけど、絶対シントさんは父親の血が強いんだろうな。中身の黒いとことかめっちゃそっくり)」
アキくんから、シントさんの母親は外人の血が入ってたって聞いたことがある。全然そんな感じないけど。まあ目は綺麗だなとは思うけどね。
『償っている身でありながら、こんなことをお願いするのは図々しいと、重々承知しています。けれどどうか。アキラくんには。このことは黙っておいてもらえないでしょうか』
苦しそうに、あいつがそう言ってる。でも、オレは決めたから。
「(それに、オレは知ってるしね)」
ただ、どこまでシランさんにあいつが自分のことを話すのか。それが鍵だ。
それから、シランさんがシントさんのことは気にしてないとフォローを入れたあと、あいつがやっと、自分のことを話し出してくれた。