すべてはあの花のために❾
アオイは、一瞬瞳を閉じて顎に手を当てて悩んだあと、ゆっくりと瞳を開く。
「だったら秘書だな。多分そう」
「秘書の名前ってわかる?」
「うん。確か『乾 実栗』だよ」
「……乾、ミクリ……」
「多分そいつだと思う。勘だけど」
「わかった。それから、そいつは最後に『昔に戻りたい』って言ってた」
「昔? ……わたしたちが、来なかった頃か」
「わからないけどそれだけ聞けた。……あ。連絡先こっそり交換しようと思ったのに忘れてたし」
「……大丈夫」
「え? なんで?」
「多分だけど、息子はまた葵に接触してくると思う。……そうか。だったら……」
「多分だけど、味方につけられるかもしれない。そいつだけじゃなく、カオルもレンも」
「そうだね。そうなったら、一歩前進かな」
「うん。オレもそう思ってる。勝機は十分あるよ」
「そっか。ははっ。楽しみだ」
「今日はいろいろあったから、アオイも疲れたでしょ。ゆっくり休みな」
「じゃあ休む前に。……ヒナタ。葵にさ、歌詞のこと。ああ言ってくれてありがとう」
「あれぐらいでお礼言われるとは驚きだったけど」
「それでも嬉しかったんだ。ヒナタにとってはあれぐらいかもしれないけど、葵にとってはすごいことだったから」
「……そっか。それはよかった」
「それじゃあおやすみ。葵の体も休ませてやりたいから横になるね」
「一晩中はここにいるから。何かあったら言って」
「うんありがと。ストーブ外出していいよ。お布団、ヒナタのおかげで温かいから」
「そ? じゃあ遠慮なく」
「うん。おやすみ、ヒナタ」
「うん。おやすみ、アオイ」
そうして、アオイが眠りにつくのを確認する。
その様子を見届けたあと、空いていた隙間をそっと閉じ、ふっと息を吐いたら少し息が白かった。
……もうすぐ、冬がやってくる。