すべてはあの花のために❾

布陣

　そして、スマホが着信のメロディーを鳴らした瞬間、オレは思わず立ち上がった。


「来たあああ!!!!」


　まさか向こうからかかってくるなんて！
　オレの日頃の行いがいいおかげだね！　ありがとうございまーす！


「ちょっと九条くん。ここ普通のアパートなんだから静かにしてよ。……しかも男子高校生連れ込んでるとかバレたら、近所の人の目が気になってしょうがないじゃない」

「もお～。本当のことなんだから堂々としてればいいんですよおー」

「すみません。今からオレがいいって言うまで絶対に、誰も、一言も。……喋らないでくださいね」

「「「「は、はい」」」」


　そしてオレはスピーカーにして、電話を取った。


『…………』

「（え。アオイ、だよね……？）」


　この番号を、葵は知らないはずだし。……え。もしかして家にバレたとか？　だったらどうしよう。


『…………め。なさ……』

「……よく聞こえない」


　別に、怒ってないんだからハッキリ言えっての。


『……っ。ごめんなさいっ……！』

「「「（……え。この声って……）」」」

「（やっぱり……）」

「……それは、何に対してのごめん？」


『……。隠して。たから……』

「（やっぱり彼女、ですよねえ……）」

「（あおいさん。泣いてる声もかわいい……）」

「（あおいさん泣かすとか最低だな……）」

「（このやりとりからして、もしかしてずっと前から……？）」

「……何を？」

『……。っ。……アキラが。婚約者候補だって。こと……』

「候補？　そうなんだ。それは知らなかった」

『……わたしが。アキラがいいって言ったから……！』

「「（はあ……!?　（ガタガタッ））」」

「（ちょっとお）」

「（お願いだから落ち着いて！）」

「ああごめん。ゴキブリがいたから潰してた」

『あ。……そうなんだー』

「「「「（ゴキブリ扱い……）」」」」

「それで？　アオイは責任感じてるんだ」

『……。だって。……わたしが。悪い、から……』

「だから、前も言ったでしょ？　アオイが悪いことなんて一つもないんだって」

『……。でも。ひなた……』

「アオイはさ、あいつのためを思ってそうしたんだって。ちゃんとオレはわかってるよ？」

『……。ん。あり、がと……』

「修学旅行帰ってきてから、一回も電話なくて心配したんだ。そっちに謝ってるのかと思った」

『そ、……それも。ごめん……』

「……アオイ、教えて。修学旅行から帰ってきて、何があったの」

『……。仮面……』

「え？」

『……。着け直さなきゃって。……思って』

「（……オレの、せいだよな。やっぱり……）」


　その話になった時、レンの顔が歪む。


『……葵。から。聞いて……？』

「アオイは言えないの？」

『……。葵が。決めたこと。だから……』

「……わかった。尋問をしよう」

『……ま。葵も覚悟はできてるよ』

「そう。それじゃあ心置きなく」

『な。……泣かさないでね？』

「は？　泣かすに決まってるじゃん」

『え。な、なんで……？』

「最近のあいつ、完璧だから」

『……そう、だね』

「つらいならつらいんだって、そう言えばいい」

『……。うん』

「苦しいなら。悲しいなら。……泣きたいなら泣けばいいのに」

『……うん……』

「そうやって仮面ばっかり。だからちゃんと笑えてないでしょ？　わかってんの？」

『……みんなに、心配掛けたくないんだよ』

「言ったじゃん」

『え……？』

「オレだってそうだって。みんなに心配掛けたくない気持ちだって、ちゃんとわかってる」

『……ひなた……』

「でも、オレらの気持ちもわかってって。あいつだって言ったんだよ？　そうやってさ」

『……うん。そう、だったね』

「掛け合いっこ。……しようって言ったのに」

『うん。……忘れてるわけじゃないよ』

「……信じてって。言ったんだから……」

『え？　……な、なんか言った？』

「（アオイも、覚えてない、か……）」


　どうやら、アオイにもちゃんと空白はあるみたいだ。