すべてはあの花のために❾
 ――――――…………
 ――――……


 よくわからないまま、あとは2時になったら説明をすると言われて、コズエさんのご飯を食べたり、お風呂に入ったりした。
 時刻は1時過ぎ。レンとカオルとコズエさんはその時間まで少し眠ると、三人仲良く眠っている。


「アイ」

「ん? 何? 九条くん」


 カーテンの隙間から差す月の光に、俺の希望を透かしていた時、俺と同様一睡もしようとしなかった彼が小さく声を掛けてきた。


「……ほんとごめん」

「え?」


 俺の隣に来るなり、さっきの自信はどこに行ったのか。本当に同一人物かどうか疑いたくなるくらい小さくなった彼が、頼りない声でそう言った。


「なんで気が付かなかったんだろう。自分のことばっかりで。……最低だオレ」

「九条くん?」


 そうやって自分ばかりを責める彼は、一体どうしたというのだろう。


「ほんと。……ごめん」


 もしかしたら、俺には謝ってないのかなって思った。いや、俺にもかもしれないけど。なんだか、俺にそう言いながら誰かの許しを請おうとしているようだった。


「……うん。いいよ? 俺も、ごめんなさい」

「……。ん」


 だったら俺が、その人の代わりに許してあげよう。さっきよりももっと小さくなってしまった彼の肩を、ぽんぽんと軽く撫でてあげた。


「……信じてたらごめんけど」

「え?」


 少し落ち着いたのだろうか、彼がぼそりとそう呟いた。


「オレは白にはなれないよ」

「……え?」


 膝に頭を埋めていた彼は、そう言いながら顔を上げて、俺の希望を指差す。


「オレは、そんなに綺麗なものなんかじゃないし」

「……くじょう、くん……?」


 なんで君は。『これ』に込めたものを知って……。


「オレは、黒を白に塗り替えることなんてできない」

「あの時の話は、君たちには聞こえなかったはずなのに……」

「オレは、……もう。汚れきってるから」

「……だから、知ってるって言うの?」

「……うん。ごめん」

「いや、いいんだけど……」


 自分のことをそう言う彼が、すごく申し訳なさそうにそう言うから。何でか、なんて。とてもじゃないけど聞けなくて。


「オレは白なんかじゃないんだ。もう。それはもう。……真っ黒なんだよ」


「でも」と。そう言った彼の声は凜としていて、ただ真っ直ぐに闇夜に浮かぶ月を見上げている。


「その鍵の黒は、オレが真っ黒に染め直してあげるから」

「え?」


 そう言った彼の顔からは、今度は力強い意思が伝わってくる。


「知ってる? 黒ってね、悪い意味だけじゃないんだよ」


 すっと、俺の手から希望を抜き去り、二本の指で持ちながらふわりと笑う。


「オレにはできるっていう、自信の色」


 ……からん。言う度に、中のストーンと鍵を鳴らす。


「オレは負けないっていう、強さの色」


 からん……。言う度に、彼の表情は黒で溢れていく。


「オレに任せていう、安堵の色」


 その表情が、あまりにもやさしくて、やわらかい。


「……どうやったって、光にはなれない色」


 そして。……あまりにも、儚い。


「オレは、引き立て役に過ぎないんだって。そう教えてくれる色」

「(……九条くん……?)」


 どうしてそんなことを。きっぱり言い切るんだろう。


「だからアイ? 白にはできないけど、真っ黒でもう一度染め直してあげるからね」

「……う、ん」


 でも、文句なんか言わせないと。そう、彼の瞳から滲み出ていて。


「(いや、文句なんかじゃなくて……)」

「きっとそうなったら、アイの色も、ちゃんと表へ出せるようになるからね」

「……う。ん。そう、だね……」


 そうなんだと。そう自分に言い聞かせている彼の本音は。


 ――……黒で、隠れていた。


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