すべてはあの花のために❾
「だから、もうちょっとだけね」
『……! ありがとうっ』
「いいえ。ていうか修行中なのに話していいの? 一人で来たのに」
『うん。まあ気休めみたいなものだから』
「そうなの?」
『うん。……でも、ヒナタくんの声聞けたから』
「え」
『今日は、修行にならなかったんだ。……ずっと。ヒナタくんのこと考えてたから』
「……!」
『すごい雑念ばっかりでさ? 和尚さんにたくさん叩かれちゃったよ~』
「ふーん。そんなにオレのこと好きなんだ」
『え?』
「ずっと考えてたんでしょ? オレのこと。気になってたんでしょ?」
『それは心配だったからで……』
「本当に?」
『……えーっと』
「ま、下僕は常に主のこと考えて、早急に対応できるようにしておかないとね」
『さ、流石ですね……』
「当たり前じゃん。オレだって、ただでさえ変態な下僕の扱い方を日々悩んでるのに」
『す、すまぬ主……』
「ほんと。要求があったら考慮してあげるんだからさ」
『え?』
「だから、なんかあったら言えってこと。いい?」
『……はい。ご主人様っ』
「(あ。なんかいい響き……)」
『みんなは何してたの?』
「聞いてよ。それがさ……」
それからは、土産話にご飯の時に聞かされた話をしてやった。……でも、それもほんの少し。
「それじゃ、そろそろ戻るから」
『……うん。そうだね。わたしも今からお山に行ってくるよ』
「は? お山?」
『そう! ……お月様に、手が届きそうなくらい近いんだって。それを見に行くの』
「……そっか。気をつけてね」
『うん。ありがとう。ヒナタくんも』
「はいはい。それじゃ、おやすみ。あお――」
『――……!』
「……下僕(ヤバい、つい癖で……)」
『ええー! なんでえー!?』
「あんたなんか下僕で十分」
『しくしく……』
「……それじゃ」
『うん。おやすみヒナタくん。……話してくれて、ありがとう』
「いいえ。…………おやすみ。あおい」
『――……!! ひな――』
ブツッと強制的に切ってやった。
うん。オレらしくなかったからな。最後はこれくらいでちょうどいい。
「……おやすみあおい。また、日曜日に」
あおいも今から見るであろう、綺麗な月を眺めながら、そう呟いた。