すべてはあの花のために❾


「今日も掛かってこない、か……」


 あおいが修行している間は、どうやらアオイも電話を掛けてこないみたいだ。


「それでももう、この時間は寝られないし……」


 離れから抜け出し、あおいの部屋で二回の夜を、月を見ながら時間を潰すことにした。


「……日向くん。また寝てないのかい」

「あ。おはようございますナツメさん」


 どうやら昨日は、三人で家族旅行に行ったらしい。ほくほくで二人は帰ってきたけど、トーマはゲッソリしてた。


「寝ないとまた倒れるぞ」

「わかってるんですけど、夜ってあんまり寝られなくて」


 唯一アオイが吐ける時間帯だからと、寝ずに起きてやりたいと思ったら寝られなくなった。


「……何かあったら言いなさい」

「はい。……あ。ナツメさんチャック開いてます」

「あ、……ありがとう」

「いえいえ」


 いいんだ。オレは寝られなくても。いつかはきっと、寝られるんだから。あおいを助けられたら、……きっと。

 その日、トーマが外出するのを見送ってからお世話になった二人にお礼を言ったら、「またおいで」とやさしい笑顔で送り出してくれた。……さて。オレらも監視といきましょうか。


「(早速手繋いでるし……)」


 いざあおいの荷物を駅のロッカーに入れ、デートが始まるかと思ったら、トーマが本気モード。そのせいで、トーマを見ていた駅の女性たちがバタバタと倒れていった。……ま、隣のあおいには効いてないけど。
 手を繋いでいることに、みんながそれぞれトーマに鋭い視線を向けていた。どうやらはじめは海中散歩をするみたいだけど……。


「(大丈夫、かな……)」


 まあ熱海は普通に来てたし、大丈夫だとは思うけど。



「(あおいもだけど、アオイも……)」


 海は、あおいが捨てられた場所。アオイが産まれた場所。
 少し心配だったけど、どうやら何事もなくデートは着々と進んでいった。ランチをして、次は動物園。……めっちゃはしゃいでるけどさ。


「はあ。めんどくさっ」


 あおいもだけど、みんなもはしゃぎすぎでしょ。バレていいの、ねえ。まあオレのせいでバレてるけどね、すでに。


「(あ。ツーショット撮ってるし。また削除してやろ)」


 それはみんな見てたのか、トーマがあおいに触れそうになったのを、殺す目つきで睨み付ける。
 しかもそのあとは自然に手を繋いで歩き出す始末。……ま、あおいが楽しいんならそれでいい。ただトーマのカメラからデータは消す。


「(トーマ……)」


 トーマが最後に連れてきた場所は、オレらがいつものように遊んでた花畑に似てる場所。そして、……オレがあおいを見つけた場所。
 ちょっといい雰囲気だけど、みんなももう止めるつもりはないらしい。


「ちょ、押すなよアキ……!」

「だって見えない」

「トーマくんもやるねー。俺には負けるけどー」

「ちょっと茜! 重いからっ」

「おうりも乗ってるからねえ~」

「(こくり♪)」

「……(パシャ)」

「いや。あんたはだからそれでいいんですか……」


 それから話し終わったのか、トーマがこっちを指差してきて。チカが大慌てして、みんなで突っ込んで。結局大騒ぎ。



「あー……もうっ。葵ちゃん! やっぱり帰らないで!」

「と、トーマさん?!」


 トーマがあおいに抱きついたところで。


「今すぐそいつから離れろっ!」
「アオイちゃんから今すぐ離れて!」
「あおいチャンから離れろおー!」
「(こくこく!)」

「杜真最低」
「アンタ、やっぱりサイテーだわ」

「…………(カシャ)」
「いや日向。だから、あんたはそれでいいんかい」


 みんなが必死になってあおいとトーマに群がるところを撮影。


「いいんだよ、これで」

「日向……」


 あいつが今、楽しそうに笑ってるのが。……オレの幸せだから。


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