すべてはあの花のために❾
それから、新幹線の最終まで遊びまくったけど、危うくもうちょっとで補導されそうだった。危ない危ない。改札でトーマと抱き合ってたけど、トーマもなんだか少し悲しそうな、でも嬉しそうな、複雑そうな顔だった。どうしたのかと心配になるけど、あおいは笑ってたから良しとする。
「あっちゃんはいつから気がついてたの?」
やっぱり問い質されたか。帰りの新幹線で、みんながあおいに食いつく。『さて、どうしたものか……』と、あおいの目がめちゃくちゃ泳ぎ始めた。
「あー。……実はねえ、わたし道場で稽古してたじゃない?」
嘘が付けない分、めちゃくちゃ動揺が半端ない。これはこれで、見てて面白いけどね。
「それで……その。朝方お風呂を戴こうと思ってたんだけど……」
助けてって、めっちゃみんなを見ながらオレの方にヘルプ要請。……しょうがないなあ。
「あー……。えっとねー……(……無理! 限界です……!)」
「(わかったわかった。話合わせてね)オレに会ってたりするんだよねーこれが」
視線で会話をしながら、話を進めた。
「え。ほんとに特に何もなかったんだけど……え? なんかあったっけ? (バレたら殺す)」
「え? いや、『あ。おはよ?』ぐらいしか話してないけど……(が、頑張るっ)」
まあ恐らくだけど、倒れてたことは知らないと思う。ただ、食欲がなかったな~ぐらいにしか、みんなは思っていないだろう。だから、脱衣所で倒れてたとかバレたら絶対大騒ぎするから、これでいい。
「そうそう。まあなんでこっちに来たのかは言ったけど(よし、よくやった下僕)」
「わたしの邪魔するつもりはないって言ってたから、それならと思ってヒナタくんにはみんなに黙ってもらってただけだよね? (おお! ありがとう主!)」
まあなんとか危機回避をできたのでよし。みんなががっくり肩を落としてる時に、二人で小さく笑い合った。
それから話を変えて、チカにアヤメさんから預かってきたものをこいつに渡すように促したんだけど。
「……みんなに、言わなくてごめんね」
「――っ。ち、がう。……オレは。オレらはっ。謝って欲しいんじゃ」
自分たちに何も言わずにあんなとこまで行ったことが悔しかったチカが、あおいと話をしてたんだけど。
「うん。ちゃんとわかってる。でも、友達って言っても、近づく限度があるでしょう?」
「へっ? ……おま。何、言って……」
その時一瞬、ちらりとオレの方を見た。……何を、考えてるんだ?
「え? お、おかしなこといったかな。ヒナタくんは、そう思うよね?」
にっこり笑ってそう言ってくるあおいは、『さっき合わせたんだから合わせて』と、若干訴えてきている。
「……そうだね」
でも、それはあおいにオレが言った言葉だから。だからもう、合わせるとかじゃない。オレはただ、そうだと答えた。
「だってさあー。変態を直しに修行行くなんて恥ずかしいこと、友達にだって言えないよお……」
そうやって笑いに替えてたけど、笑顔のあおいの瞳の奥は笑えてない気がした。でもDVDをあげた時は、また元の笑顔に戻ってたから。……その時はまだ、気のせいかと思った。
そのあとシントさんに電話をすると言ったあおいは席を立ち、オレらは四国観光の話とか、キサの寝相をどうするかについて話をしていた。
「……あ。なんか来た」
「ん? 誰から?」
チカがそう言って声を上げた。相手は……サツキさん?
「……入院、て……」
「え?」
ぼそりと。隣にいたオレにしか聞こえないぐらいだったが、そう言った気がした。
「……ッ、くっそ……!」
「ちょっ。……チカっ」
チカがスマホを握り締めて、あおいが行った方へと駆けて行った。
「(入院って。もしかしてフジ婆……?)」
みんなもチカの慌てように、似たようなことを考えついたらしい。顔が暗くなっている。……今、チカがあんなに慌てる相手は、もうフジ婆しかいないんだから。みんなが席を立って、チカのところに行こうとしたけど。
「大丈夫。あいつが居るからさ。あいつだけで十分だよ」
あおいはまだ帰ってきてない。でもきっと、チカの異常さに気がついて、ついていてくれるはずだ。
「(それに、これは『願い』だから……)」
何もできない自分が悔しくて。……ただただ手を、握り締めていた。
「(……いや。何もできないことないじゃん)」
確か、カエデさんはチカの両親を知ってるんだから、もしかしたらフジ婆のことも知ってるかも知れない。
「(連絡する価値はある)」
でも今は、どこに入院してるのかとかわからない。チカが帰ってきてから、そっと聞いてみることにしよう。