すべてはあの花のために➓

 ――――8日の夜中。


『今日は私の方から』


 やっぱり今日もモミジは出てこなかった。代わりにレンが、『願い』について話をした。


『カオルともう一人の方と一緒に、彼女を追い詰めることをしてきました。それは、家の指示で時間を削るため』


 あいつに、無理をさせてしまうこと。本意ではないだろうが、オレらもしていたということを話した。


『皆様、彼女に『願い』を叶えていただきましたよね。自分たちの家の問題を、彼女に助けてもらいながら、最後は自分の力で解決した。違いますか?』


 きっとあいつなら、自分の力だけで十分その『願い』を叶えてやれただろう。でもそうしなかったのは、一人一人の成長に繋がらないから。だから、少し無理をしたとしても、みんなの背中を押すことしかあいつはしなかった。
 ……オレの場合は突き飛ばされたけどね。最終的にビンタ食らったけど、まあそれは『願い』じゃなかったか。


『言っていませんでしたか彼女が。礼をしてもらえるようなことをしたわけではないと。少し手を貸しただけなんだと。……彼女は皆さんに、皆さんにだけは、お礼を言って欲しくなどないのです』


 ――それはまた明日。明日は必ず、『あいつ』の方から話してもらうと。そうレンは言い残して、話を終えた。



「ひーくん大丈夫?」

「え? 何が?」

「お前、ずっと眉間に皺寄ってるぞ」

「難しそうな顔してるわ」

「あ。……初めましてカリンさん。体調は大丈夫ですか?」

「わたし? わたしはもうすっかりよくなったわ。これもあおいさんのおかげね」

「……はい。きっと、そうだと思います」


 お礼を言われることは嫌なんだろう。でも、きっと壊れた彼女を治すことができたのもあいつだけだ。……皮肉なものだな。


「それで……ひなたくん? どうして難しそうな顔をしてるの?」

「そんな顔してましたか?」

「ひーくん何考えてるのかなって思って」

「(あいつがまた無理して寝ないでいるから、寝て欲しいなって思ってただけなんだけど……)」

「何かあったら言え。お前、今にも倒れそうだから」

「そうですか? ゴリラさ、……エンジュさん」

「そこまで言うならもはや直すな」

「あ、はい。じゃあゴリラさん」

「はああー……」

「まあまあ炎樹くん。ほんとだからしょうがないわ?」


 落ち込むエンジュさんを、カリンさんはよしよしと宥めていた。


「言っても聞かないだろうから、ひーくんが倒れる前に言っておこうと思って」

「……? オレは別に大丈夫だけど」

「ならいいけど。……でも、倒れちゃったら悲しむのはあーちゃんなんだからね? 倒れるならせめて助け終わってから倒れてね!」

「だから倒れないって」

「あーちゃん、ずっと苦しんでたんだね……」

「オウリ……」

「ひーくんも」

「みんなそう言うけど、オレは別に」

「ほんとに? 今も悩んでる。違う? 何か引っ掛かってること、あるんじゃないの」

「……あいつ、寝てないんだってさ」

「え? あーちゃん?」

「また無理して起きてるんだ。……いや、もしかしたら怖くて寝られないのかも知れないけど」

「………………」

「だから、寝てくれないかなって。……ちょっと思ってただけ」

「……はあ。じゃあ、そういうことにしておいてあげる」

「……オウリ。オレは」

「なんで諦めようとしてんのか知らないけど、……おれは絶対に譲らないから」


 そう言ってオウリは、二人と一緒に部屋へと戻っていった。


「……だって、オレも大人にならないと……」


 自分の我が儘に、大切なあいつを巻き込むことなんてできない。ましてや、……あいつの幸せを奪うなんて。


「……よく見てるよね、ほんと」


 それが少し、怖いくらいだ。心の奥底までは、見透かされないようにしたいのに。


< 248 / 307 >

この作品をシェア

pagetop