すべてはあの花のために➓
終止符
「はるちゃんをっ、……返せぇええ!!」
だから。……返せるもんなら返してるって。
「あんたのせいで……!」
……うん。わかってるよ。もう。十分すぎるほど。
「何もかも全部。あんたのせいだ……!!」
わかってる。……わかってるよっ。
ああ。今、何日目だろう。あと何日。これは続くんだろう。ハルナがいなくなってから、八回目の誕生日がくる。
誕生日なんて、祝ってくれるのはみんなくらいだ。オレだってどうでもいい。ほんと、もうどうでも――――。
『ルニちゃんっ!』
「――……!!」
……もう何回目だろう。いや。何十回、何百回かもしれない。
思い知らされるんだ、ほんと。こうやって、いつも楽になりたくなる度に、あいつの声がオレを引き戻す。
『ヒナタくんっ』
いつから、名前を呼んでもらっていないだろう。……ああ、あれか。ぶちギレた時。いつから声、聞いてないだろう。……いや、バレンタインだろうよ。いつから、会ってないだろう。……うん。それもバレンタインだよね。いつから。あいつの姿すら見てないだろう。……だから、これもだっつうの。
いつから。笑顔。見てない…………あ。アイのデートか。嫌だなあ。あれが最後とか。
「……会いたい」
まわりの家には聞こえてないだろう。こんなに母さんが大きな声を出していても。割と土地広いし、隣の家から少し離れて建ってる。……ま、何だかんだ父さんがいいところ買ってくれたんだけど。
そんなんしないと、大事なんだって言えないのかよ。お金だってなんだって、父さんが全部持ってくれてるってのに。ほんと、……バカだよ。父さん。
「はるちゃんを。つばちゃんをっ。とうせいさんを。……ッ、返してよぉおお!!」
……ツバサ、頑張ってるんだろうな。
ほんと、すごいよね。いや、何がすごいかってあのクオリティー。弟のオレでさえ驚きだけど。流石、同じ血が流れてるなと思ったね、うん。
「出られないって言ったから、アオイも、先生たちも連絡はしてくることはなかったけど……」
毎日のように、みんなからはバラバラに連絡が来る。……ほんと。毎年そうだ。ほんと。オレなんかと友達なのが不思議なくらい。
アキくんからは、卒業式の動きと、オレの名前を連呼したメール。……いや、普通に怖いよ。
カナからは、エロ本の写メ付きのメール。『あいつのことやめてこの子にしたら~?』とか言ってくるから、登校した時はぶん殴る。
ツバサは、ある時を境に来なくなった。最後のメールは、『脱オカマしてくる』って書いてあったけど。未だ『できた』という報告はない。
アカネは安定のキャラのフィギュアの写真。ていうか、毎年増えてるのは気のせいじゃないはず。
チカは懐メロとか添付して送ってきてるけど、一回も聞いたことない。
オウリはあいつとベッタリくっついてる写真。添付して来やがったから、早速トリミングしてオウリは消した。
キサは。……あいつがどんなだったか送ってくれてる。平気そうにしてるけど、やっぱりどこか暗いんだってさ。
「ま、泣かしたしね。結局のところ」
オレの前では泣いてくれなかったけど。取り敢えず、仮面の破壊に一歩近づいたってとこかな。
「……チョコ。めっちゃ美味しかったよ。ありがとう」
あのあとオレも結局落ち込んで、あいつが置いていったチョコを食べていた。その時はカード見る気にもなれなかったから、あとで見ようと思ったまま忘れてた。母さんが落ち着いたら見てみよう。
「……ほんと。今まで食べた中で一番」
こんなこと、本人の前じゃ絶対に言えないけど。……いいんだ。口にするだけなら。
「……。元気、かな」
また、溜め込んでないかな。ちゃんと、吐いてるかな。
「笑えてる、かな……」
そうだと、いいな。あいつが幸せなら、……それでいい。