雨音。〜私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました〜
 雨の音を聴くのが好きだ。

 ポツ、ポツ、ザー、ザザー。

 いきなり降り出した夕立の音。
 外にいたらきっとずぶ濡れになるほどの土砂降り。
 それは家にいるのが許される音。引きこもっていてもいい合図。
 こうやって、ひとりで膝を抱えていても、誰も咎めない。

 ザ、ザー、ザザー。

 雨音に耳を傾け、頭をからっぽにする。雨音は嫌な思考を邪魔してくれる。
 だから、雨の音は好きだ。 

 ピンポーン。

 そんな穏やかな時間を終了させるように、インターホンが鳴った。

(誰?)

 モニターを見ると、そこにはずぶ濡れの色男がいた。
 貼りついた前髪の隙間から、強い光を放つ黒い瞳がまっすぐ私を見ている。
 予想外の訪問者に、私は息を呑んだ。

(どうして!)

 今、一番会いたくない人だった。
 見なかったことにして、モニターを消した。
 それを見計らったように、またインターホンが鳴る。今度は連続して。
 『いるんだろ?』と言わんばかりにモニター画面の彼が見つめてくる。
 私が部屋にいるのを確信しているそぶりだ。
 観念して、通話ボタンを押す。

「はい……」
「瑞希、入れてくれ」

 ストレートに言われ、断ることもできず、私は無言で解錠した。
 すぐに戸口のベルが鳴る。
 ドアを開くと、プールにでも飛び込んだのかと思うほど全身びしょ濡れの彼が立っていた。
 まさに水も滴るいい男で、少し癖のある前髪が額にかかり、そこからしずくが垂れる。Tシャツが貼りついて、引き締まった身体を露わにしている。
 彼は片手で髪を掻き上げた。
 その姿はずるいと言いたくなるほど色っぽい。
 でも、もう片方の手はなぜかポリ袋を握りしめていた。
 中に白い紙みたいなものが見えるから、濡らさないためかもしれない。

 彼は柏井伶。私、柏井瑞希の義弟だ。
 先ほど母からの電話で彼が結婚すると聞いたばかりで、私の落ち込みの原因でもある。



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