雨音。〜私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました〜
 高校の頃よりさらに背が伸びて、上背があるほうの私でも見上げないといけない。
 彼にバスタオルを渡すと身体を拭いて、入ってきた。
 伶が私の部屋にいる――それだけで、私の胸はドキドキうるさくなるが、なんとか姉らしい顔を作って言う。
 
「シャワーでも浴びたら? 風邪引くわ」
 
 十月に入り、数週間前の暑さが嘘のように急に肌寒くなった。身体が冷えているはずだ。
 うなずいた伶をバスルームに案内して、着替えにジャージを出した。私は背が高いし、伶は細身だから、なんとか着られるだろう。
 彼がシャワーを浴びている間にコーヒーを淹れた。

(いったいなんの用なの?)

 久しぶりに伶をまともに見て、胸の高鳴りが収まらない。
 そして、その直後に思い出す。

(そういえば、結婚するんだっけ? その報告に来たとか?)

 そう考えて、気持ちが暗く沈んでいく。
 もういい加減に伶から卒業しなくちゃと、告白された人と付き合ったこともあったけど、キスする段階で無理だった。
 でも、今度こそ、思い切らないといけない。
 胸が締めつけられたように痛んで、苦しくなった。

 髪を拭きながら、伶が風呂からあがってくる。
 細いと思っていたのに、ぴちぴちのジャージに引き締まった筋肉質な身体が浮き彫りだ。短いズボンがサブリナパンツみたいだったけど、それでも伶はかっこよかった。
 大人になった伶に会うのは本当に久しぶりで、つい見惚れそうになって、目を逸らす。

「コーヒー飲む?」
「飲む」

 言葉少なに答えた伶は、今年商社に就職して、忙しくしていると母から聞いていた。
 こんなに無口で大丈夫なんだろうかと心配になるが、彼は器用なたちだから、それなりに仕事をこなしているのだろう。
 テーブルにコーヒーを出し、ソファーに座る。
 伶も隣に座って、コーヒーをすすった。
 沈黙が続く。

「で、なんの用?」

 彼が口を開かないので、私は焦れた。我慢できずに、聞いてしまう。きっと聞きたくない話なのに。
 伶は私をじっと見つめてぼそっと言った。

「……姉弟を止めに来た」

 予想よりひどい話に、目の前が真っ暗になった。
 彼の整った顔を呆然と見つめる。
 長いまつ毛の奥の瞳は思いつめたように私を見ている。

(縁を切りたいってこと? そんなに嫌われてたの?)

 ゴ、ゴー、ザザーッ。

 また一段と雨の音がひどくなった。風の音も加わる。
 でも、その音も私の心を落ち着けることはできなくて、喉が詰まって息ができない。
 伶は眉を曇らせ私の顔に手を伸ばした。知らないうちに頬を流れていた涙を拭ってくれる。
 彼に触れられたのは花火大会以来かもしれない。
 涙を拭った手はそのまま私の頬に留まって、顔を持ち上げた。
 伶の顔が近づく。黒い瞳に私が映っていた。



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