あの桜の木の下で
そして、少女が刀を抜いて本物の殺気でその人を殺そうとした瞬間、

「やめろ!」

そう大きな声が響いた。

その声の主は、局長だった。

そして、暴走しかけた少女を手刀で気絶させ俗に言うお姫様抱っこで抱えた。

「君も済まないね。こいつは歳さんに対してこういうところがあるから。歳さんも。こいつがこんななのは百も承知だろう。それで何故遊郭になど行った。」

「……チッ」

そして少女と局長は屯所の奥へと去って行った。





嵐のような出来事が去り、道場は異様な静けさに包まれていた。そこでようやく口を開いたのは伊藤さんだった。

「……新入隊士の奴らは知らねーかもしれないけど、あの人はああいうところがあって…局長じゃないと誰も止められないんだ。だから局長が来るまで何もしないことにしてあるんだ……先に言っておくべきだった。」

そう俯いて話し出した。

「……アイツは、元々精神が弱くてだな……ガキの頃からそうだった。とあることがきっかけで"口減らし"という名目で当時近藤さんの父上が運営していた道場に預けられることになったんだ。それで自分は捨てられたって思ってたらしくてよ。虐められたりもしていたんだ。俺たちは元々あいつと、近藤さんと俺と源さんだけだった。そん中では唯一の武家の出で…俺が虐めてた奴らを追い返したんだ。そしたらそれからああなりやがった。……本当なら、こんな人斬り組織になるまで着いて来るはずじゃあなかったんだがな……」


そんな、事が……

「元々精神が弱えーから、人を斬るのも無理だと思ってたんだが、あいつの性格上、こうなっちまうのは必然的か……」

それから、看病の当番を順番で行っていた。そんな時、



「目を、目を覚ましたぞー!」

声が聞こえた。そして全員で見に行くと、

「…………また、暴走してたんですね……全く記憶がないや。何の罪もない人を、殺したくないなぁ……」


きっと、辛かったんだろうな……


そう思って俺は、名前も知らない少女を抱きしめた。


「……!え……?」

「辛かったんすよね。自分でも自制が効かなくなるまで、壊れて……それで、どうにもならなくなって……本当は、人を斬るのも辛いんでしょう?」

「……。」

そんな俺に戸惑い、

「……誰から、聞いたの……?私の精神が弱いって……本当の事、聞いてくれますか?」

「もちろん。」

「……本当は、ヤンデレなんかじゃないんです……土方さんが好きなのは本当ですけど……また、捨てられたらどうしようって、不安で仕方なくて……それで、気づいたら私の中の得体の知れない何かが暴走してて……自分でも……分かってるんです……誰かを巻き込むかもしれないし……前は、気づいたら死体が足元に転がってるって事もあって……すごく、怖いんです……」

そんなことがあったのか……そして、俺は、

「そういえば、名前聞いてませんでしたよね……名前、なんていうんですか?」


気づけばそう聞いていた。

少し驚いた顔をした少女は、俺に微笑んで、

「……^^新撰組一番隊隊長沖田総司。」
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