明治時代にタイムスリップとか有り得ない!!
鉄鍋の中で焼き目の付いた肉がぐつぐつ煮えている。鍋の中には肉と一緒にネギや豆腐や椎茸なども煮込まれている。
それは、牛鍋。
現代風に言い直すならすき焼きと言ったところだろう。
「しゃあ!空いてて良かったな!」
「そうですね!」
子供のように目を輝かす勇と柚はうっとりと甘辛い匂いがする牛鍋を見守っている。
牛鍋。その響きに胸をときめかせない女子などいないだろう。あまりにも嬉しすぎて柚が「牛鍋は冷えてもご飯に合うけど、目の前で煮えたお肉を頬張るのが牛鍋の醍醐味だと私は思うんだよね。あの口の中が火傷するかどうかのせめぎ合いと、お肉の権利の主張をご飯が抑え込むのが食卓にさらなるドラマを―――」と牛鍋を口説いても、牛鍋からの返事は返ってこない。ただ、ぐつぐつと音を立てているだけだ。
「今日は咲真の奢りだから、遠慮なく食えるな!」
「勇さんは少し遠慮して下さい…!」
三日前、調査協力をしてくれた柚と勇へのお礼という訳で、咲真の奢りが決定したのが数分前。
「柚ちゃんは酒飲むかー?」
透明なお酒をコップに注ぐ勇の陽気な声に柚は身構える。
(え、未成年だよ!?未成年は流石にダメでしょ…)
柚は助けを求めて真面目そうな咲真の方を見るが、そこには無言で野菜達を勇の取り皿に入れていく咲真の姿。
未成年の禁酒法が初めて作られたのは大正時代になってから。だから今ここで柚がお酒を飲んでも犯罪に問われることはないが、現代の常識に慣れ親しんでいる柚には抵抗があった。
「あ、悪い。酒は嫌いか?」
「まぁ…」
明らかにしょんぼりする勇に申し訳ないことをしてしまったな…と柚は少し思ったが、いやいや飲酒は二十歳になってから!と、正気に戻る。
「娘、そいつは蟒蛇だから酒を飲ますと永遠に飲むぞ」
「…それ、本当ですか?」
咲真は小さく頷いた。
「たまに酩酊するから、そうなったら放っておけ」
「分かりました…」
お品書きには『並』と『特上』の二種類のランクがあり、勇は気前良く後者の肉を注文する。
「遠慮はいらないからなー!足りなかったら追加注文すれば良いからどんどん食べろー!」
勇のゴーサインが出たと同時に柚は鉄鍋に箸を伸ばす。
「ん~!美味しい!!」
味付け自体はほぼすき焼きと同じだが、とても美味しく感じられた。いや、すき焼きも美味しいが。
「あの、この牛鍋ってやっぱり高いんですか?」
高かったら申し訳ないと思い、勇が追加注文している隙に咲真に尋ねる。するとお品書きを読んでいた咲真が顔を上げ、口を開いた。
「高いと言ったら高い。上等な物だと五銭もするだろうな」
「五千円!?」
「五銭だ。そんな大金があればこの店ごと買い取っても釣りが返ってくる」
五銭、五銭と口の中で復唱する柚。
貨幣価格も現代とは違うので、五銭が高いというのにピンとこない。現代価格に換算すると一体いくらになるだろうか。一圓は現代で二万円くらいというのは知っていたが、細かい値段までは知らない。
「何か、すみません」
「娘よりも遠慮すべき奴がそこにいるから気にするな。それでも申し訳ないと思うなら、残さず食え」
明治時代では牛肉はそう庶民が中々口にすることが出来ない代物らしい。
申し訳ないと思いながら、柚は煮えきった鍋から自分の取り皿に肉を移した。火が通り過ぎて固くなってしまった肉ほど悲しいものはない。
「柚ちゃんの好きな食べ物は?」
「えっと…甘い物と牛肉ですね。いや、鶏と豚も美味しいけど、、、」
「良いな、甘い物と牛肉。俺は洋菓子が好きなんだ!ちなみに咲真は盛り蕎麦二枚食べる程の蕎麦好き。凄いよねー、二枚だよ?二枚」
「勝手に人の話を大声で言うな!」
流れるように言い争いに発展する。喧嘩する程仲が良いとは、きっと目の前の二人のことを言うんだろうな。
人と人との出会いは予想もつかないらしい。数日前に出会った警察官二人と仲良く鍋を囲んでいる柚もそれは例外ではないのかもしれない。
それは、牛鍋。
現代風に言い直すならすき焼きと言ったところだろう。
「しゃあ!空いてて良かったな!」
「そうですね!」
子供のように目を輝かす勇と柚はうっとりと甘辛い匂いがする牛鍋を見守っている。
牛鍋。その響きに胸をときめかせない女子などいないだろう。あまりにも嬉しすぎて柚が「牛鍋は冷えてもご飯に合うけど、目の前で煮えたお肉を頬張るのが牛鍋の醍醐味だと私は思うんだよね。あの口の中が火傷するかどうかのせめぎ合いと、お肉の権利の主張をご飯が抑え込むのが食卓にさらなるドラマを―――」と牛鍋を口説いても、牛鍋からの返事は返ってこない。ただ、ぐつぐつと音を立てているだけだ。
「今日は咲真の奢りだから、遠慮なく食えるな!」
「勇さんは少し遠慮して下さい…!」
三日前、調査協力をしてくれた柚と勇へのお礼という訳で、咲真の奢りが決定したのが数分前。
「柚ちゃんは酒飲むかー?」
透明なお酒をコップに注ぐ勇の陽気な声に柚は身構える。
(え、未成年だよ!?未成年は流石にダメでしょ…)
柚は助けを求めて真面目そうな咲真の方を見るが、そこには無言で野菜達を勇の取り皿に入れていく咲真の姿。
未成年の禁酒法が初めて作られたのは大正時代になってから。だから今ここで柚がお酒を飲んでも犯罪に問われることはないが、現代の常識に慣れ親しんでいる柚には抵抗があった。
「あ、悪い。酒は嫌いか?」
「まぁ…」
明らかにしょんぼりする勇に申し訳ないことをしてしまったな…と柚は少し思ったが、いやいや飲酒は二十歳になってから!と、正気に戻る。
「娘、そいつは蟒蛇だから酒を飲ますと永遠に飲むぞ」
「…それ、本当ですか?」
咲真は小さく頷いた。
「たまに酩酊するから、そうなったら放っておけ」
「分かりました…」
お品書きには『並』と『特上』の二種類のランクがあり、勇は気前良く後者の肉を注文する。
「遠慮はいらないからなー!足りなかったら追加注文すれば良いからどんどん食べろー!」
勇のゴーサインが出たと同時に柚は鉄鍋に箸を伸ばす。
「ん~!美味しい!!」
味付け自体はほぼすき焼きと同じだが、とても美味しく感じられた。いや、すき焼きも美味しいが。
「あの、この牛鍋ってやっぱり高いんですか?」
高かったら申し訳ないと思い、勇が追加注文している隙に咲真に尋ねる。するとお品書きを読んでいた咲真が顔を上げ、口を開いた。
「高いと言ったら高い。上等な物だと五銭もするだろうな」
「五千円!?」
「五銭だ。そんな大金があればこの店ごと買い取っても釣りが返ってくる」
五銭、五銭と口の中で復唱する柚。
貨幣価格も現代とは違うので、五銭が高いというのにピンとこない。現代価格に換算すると一体いくらになるだろうか。一圓は現代で二万円くらいというのは知っていたが、細かい値段までは知らない。
「何か、すみません」
「娘よりも遠慮すべき奴がそこにいるから気にするな。それでも申し訳ないと思うなら、残さず食え」
明治時代では牛肉はそう庶民が中々口にすることが出来ない代物らしい。
申し訳ないと思いながら、柚は煮えきった鍋から自分の取り皿に肉を移した。火が通り過ぎて固くなってしまった肉ほど悲しいものはない。
「柚ちゃんの好きな食べ物は?」
「えっと…甘い物と牛肉ですね。いや、鶏と豚も美味しいけど、、、」
「良いな、甘い物と牛肉。俺は洋菓子が好きなんだ!ちなみに咲真は盛り蕎麦二枚食べる程の蕎麦好き。凄いよねー、二枚だよ?二枚」
「勝手に人の話を大声で言うな!」
流れるように言い争いに発展する。喧嘩する程仲が良いとは、きっと目の前の二人のことを言うんだろうな。
人と人との出会いは予想もつかないらしい。数日前に出会った警察官二人と仲良く鍋を囲んでいる柚もそれは例外ではないのかもしれない。