歪んだ月が愛しくて1
立夏Side
真新しい白色のブレザーと紺色のチェック柄ズボン、中には学校指定の淡いブルーのワイシャツにズボンと同じ柄のネクタイを身に纏う俺は目の前に聳え立つ建物を見上げてぽかんと口を開けたままその場から動けずにいた。
「………ここ、どこ?」
そう口に出して確認するも返答はない。
でも確かに車中のアナウンスで流れていた。
ここは「聖楓学園前」の停留所だと。
他にそれらしき建物がないかと確認するが何もない。
正確に言えばないのではなく見えないのだ。
山奥と言う立地とあまりに広大な敷地に視界では捉えきれない。
つまり目の前に聳え立つこの建物こそが俺がこれから3年間通う私立聖楓学園と言うことになる。
「でっか」
金持ちが集まる学校とは聞いていたが、まさかこれほどまでとは思わなくて予想外のスケールに驚きを隠せない。
とてつもなく場違いなところに来てしまった。
いや、そもそも来る前から分かっていた。
でもここに来る以外に選択肢がなかったのもまた事実で、結局のところ俺には拒否権も選択権も存在しなかった。
そんなことを思いながら長時間のバスで固くなった身体を大きく伸ばしてだらしなく肩に掛けたスクールバッグを背負い直す。
「学校って言うより城だな」
煉瓦造りの巨大な門扉とその横にずらっと続くのは10メートル以上もある黒い鉄格子は御伽噺の中に出て来る城壁そのものだった。
右を見ても左を見ても大きな檻に囲まれているみたいで外部からの侵入防止のためか先端が鋭く尖っている。
「あるいは刑務所か…」
ここに俺が通うのか。
自分で言って置きながら言い得て妙だな。