歪んだ月が愛しくて1
「……どう言うことだよ?」
「何が?」
頼稀に手を引かれるがまま自分の部屋の前まで連れて来られた俺は今まで繋いでいた手を緩められたかと思えば、頼稀は「じゃな」と言って自身の部屋に戻ろうとしたため今度は俺が頼稀の腕を引っ張って自分の部屋の中に連れ込んだ。
「何がじゃねぇよ。何勝手に完結してんだよ。こっちはお前等に聞きたいことが沢山…、沢山あるってのに…っ」
「………」
感情に任せて声を荒げる。
そんな俺の態度にも頼稀は微動だにせず逆に溜息を吐かれた。
「……アゲハさんの言ってたことが気になるのか?」
「なる」
俺が即答すると、頼稀は微かに口元を緩めた。
「何でアゲハは俺を探ってた?俺を潰すためか?」
「あの人はお前を恨んじゃいない。さっきもそう力説してただろう」
「それを信じろと?」
「お前が信じなくてそれが真実だ。無駄に警戒したところで杞憂に終わるぞ」
「じゃあ何で…」
「病気だから」
「病気?」
またそれか。
ここの連中は病人ばっかだな。
「アゲハさんが言ってただろう、あの人はお前のファンだって。お前は知らないだろうがそりゃもうスゲー執着っぷりだったんだよ。現在進行形で。お前の行動を監視させられたり、盗さ…写真を撮らされたりって」
「おい、今盗撮って言わなかったか?」
「気のせいだろう」
いやいや、聞こえたから!
ちゃっかり盗撮とか言ってたから!
誤魔化されねぇからな!
「俺は“B2”の諜報だからこう言う仕事は全部俺に回って来るんだよ」
「諜報?」
「要は情報収集だ」
「パソコン得意なの?」
「そこそこ」
「俺のことは何で調べたわけ?」
「パソコンだったり、直に見聞きして情報を集めたり」
まるで現代版忍者だな。プライベートなんてありゃしない。
人には知られたくないことの一つや二つあるものだと思う。当然俺にもある。
「じゃ、うちのことも…」
「勿論知ってるぞ」
「、」
俺の場合は一つや二つじゃないけど。
「あー…そっちか。さっきから落ち着かねぇと思ったら」
頼稀はバツが悪そうな顔をしてガシガシと頭を掻く。
「何で…」
その声は自分でも驚くほど冷静だった。
「調べたから…。もしかしたらお前のことはお前よりも知ってるかもな」
「俺よりも?」
「そのくらいお前のことを知ってるってこと」
「……変態」
何かを誤魔化すように暴言を吐く。
何かなんて分かってるのに、認めたくなかった。
「アゲハさんに関しては否定出来ねぇな」
「あの変態、いつか殺す」
「それだけお前に憧れてるってことだよ」
「嬉しくねぇよ…」
その言葉に自然と眉を顰める。
一般的に言う「憧れ」の意味はきっと悪い意味ではないだろう。
でもこの力に対して憧れているのであれば俺にとっては苦痛以外の何者でもなかった。