歪んだ月が愛しくて1
未空Side
藤岡立夏。
特例で認められたこの学園で唯一の転入生。
噂が流れ始めた頃からずっと気になっていた。
特例で入学を許可されるほどの人物なのか、ただ頭が良いだけの特待生か。言ってしまえばただの怖いもの見たさだ。
ずっと刺激が足りないと思っていた。
物足りない日常。つまらない日々。変わり映えのない生活に飽き飽きしたい。
何か退屈凌ぎになるものはないかと考えていた時だった。俺がリカと出会ったのは。
初めてリカを見た時、思わず言葉を失った。
それは俺だけじゃなくて教室にいた誰もがそうで。
黒色のミディアムショートに、灰色の瞳を隠すかのような黒縁眼鏡。一見ガリ勉風のオタクスタイルなのに中性的な顔立ちと何より纏っている空気に惹かれた。
凛としたどこか冷たいオーラ。リカの周りだけが透明でとても澄んでいるように見えた。
触れてはいけないと、何となくそう思った。
手を伸ばしても届かない。
灰色に輝く瞳がまるで夜空に咲く月を思わせた。
月から来た転入生。
そんなお伽話があったような、なかったような…?
そんなリカの自己紹介は自分の名前を言うだけのシンプルなものだった。
「宜しく…」とは言ってくれたけど本心では深く関わるのを避けているように思えた。
それくらいきっちりと引かれた境界線。
独りになることを望んでいるように見えた。
でも少しずつリカと話しているうちに本当は誰よりも独りになることを怖がっているんだと思った。
必死に強がって虚勢を張って、態と興味ないふりをして一線を引いている。
その姿が何だか痛々しくて、段々と愛らしいとさえ思うようになった。
この子が欲しい。
初めて自分から友達になりたいと思った。
リカなら“神代未空”じゃない“仙堂未空”を見てくれるような気がした。
だから強引に生徒会に誘った。
初めは嫌がっていたリカだけど意外にも尊がリカを気に入ったことで何とかリカを生徒会に入れることに成功した。みーこの作戦勝ち。
リカは悔しそうだったけど俺的には結果オーライ。終わり良ければすべて良しってね。
でもリカを生徒会に入れたかったのはきっと俺だけじゃない。
尊も、ヨージも、九ちゃんも、皆がリカに興味を持っていた。
その理由を俺は知っている。
初めは皆も俺と同じようにただの退屈凌ぎ程度にしか考えてなかったと思う。
でも、今はそれだけじゃない。
不本意だけど俺達は家柄と容姿に恵まれていた。
そんな俺達に声を掛けて来ない奴等はいない。
特にこんな閉鎖的な空間ではそれが日常となっていた。
でもリカはそんな俺達と一緒にいることをはっきりと拒絶した。
駆け引きでも、誤魔化しでも、計算でもない。
本心から俺達と関わりたくないと、分厚いレンズの向こうで訴えていた。
家柄が良くて顔も良い、何より現生徒会である俺達を。
それまでの俺達は紀田ちゃんが言うようにやりたい放題で、性格が悪くて危ない連中と言われても仕方ないことばかりして来た。
だから、俺は思った。
きっと皆もそう思ったはず。
リカの拒絶はまるで俺達が犯した罪に対する罰のようだと。
過去の自分を省みる時が来たのだと…。
リカが生徒会に入って1週間。
今では朝が弱いリカを食堂に誘うのが俺の日課となっていた。
そのためならいつもより30分早く起きるのだって全然苦じゃない。ふっしぎ。
ああ、この気持ち。
あの頃とよく似ている。
尊が俺を見つけてくれた、あの時のよう…。