歪んだ月が愛しくて1

覇王親衛隊




立夏Side





食堂を出て向かった先は屋上だった。



「……悪い」



屋上に着いた途端、頼稀は俺の手を離して距離を取った。



「……何が?」



そこにタイミング良く5限開始のチャイムが鳴る。



「悪い」

「だから何がだよ」

「………」



頼稀は何も言わない。
その代わりフェンスに凭れて空を見上げている。



まあ、頼稀が考えそうなことは大体分かるが…。



「次の授業は?」



そんな頼稀の横まで行ってフェンスに背中を預けた。



「歴史」

「自習ね」



サボろう。
そう思ってフェンスに凭れながらズルズルとアスファルトに座り込む。
制服から愛用のものを取り出して口に銜えて火を点ける。



ああ、やっぱり落ち着く。

この苦味が俺の思考を冷静にさせてくれる。



「頼稀が謝ることじゃない」



頼稀の視線がゆっくりと俺に向けられる。



「昼飯中断したことも授業サボるのも、全部俺が決めたことだよ」



頼稀と目を合わせてニカッと笑ってみせると。



「寧ろサボれてラッキー」

「……バーカ」



釣られた頼稀も笑ってくれた。



「そんなことよりもグラス叩き割ったことの方がよっぽど悪いよ」

「仕方ねぇだろう。ああでもしねぇとアイツ等は大人しくなんねぇんだから」

「それは言えてるけど」



あの2人が揃うといつもの倍疲れる。

相乗効果あり過ぎだろう。



「……気を付けろよ」



その言葉の意味が理解出来なくて首を傾げる。



「親衛隊。きっと何か仕掛けて来るはずだ」

「……俺が生徒会に入ったから?」

「それもあるが…、火種を蒔いたのは御幸陽嗣だ」

「………」



頼稀が言いたいことは分かる。
ただ理由が分からなかった。
火種を蒔いた理由は何だ。
俺が邪魔ならこんなまどろっこしいことせずに直接言えばいいものを。
本来彼の立場なら造作もないことのはずだ。



「あれのせいで親衛隊は確実にお前を標的にしたはずだ。前にも話したが奴等は何をするか分からない。とは言え奴等は一般人。無闇に手を出すのは利口な方法じゃないのはお前だって分かるだろう?」

「一般人には手を出すな、か…」



……面倒だな。
あっちが仕掛けて来るまで手が出せないとなると相手の出方次第で対処方法が変わって来る。下手な不良共より厄介だ。



「出来る限り単独で動くなよ」

「分かってるよ」



暴力で解決するつもりはない。
喧嘩なんてもう懲り懲りだ。



「ちゃんと、分かってるから…」



火種は蒔かれた。

もう後戻りは出来ない。


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