歪んだ月が愛しくて1



「……また?」

「まただな」



屋上から戻ると教室内ではいつもの光景が広がっていた。



「仙堂!お前性懲りもなくまた…っ、黒板消しは叩くな!煙が充満するだろうが!」

「えー、でもこの方が手っ取り早いじゃん」

「早くても煙いんだよ!やめろ!クリーナーを使え!」



飽きないね…。



「あ、2人共お帰り」

「遅いぞ。2人して午後の授業サボりやがって」



未空と御手洗くんのやり取りを教室の外から見守っていた希と葵は俺達の姿を確認すると声を掛けて来た。



「悪い、昼寝してた」

「昼寝?」

「どこにいたの?」

「……屋上」



あの後、俺と頼稀は屋上で眠ってしまった。
元々サボるつもりではあったがまさか放課後まで爆睡するとは思わなくて自分でも驚いた。



「それで今起きたのかよ」

「ぐっすりだね。夜眠れないんじゃない?」

「偶にはいいじゃん」

「お前は常習犯だろうが」

「てへぺろ」

「せめて真顔はやめろ。可愛くねぇから」

「元が可愛くねぇんだからどうやっても無理なんだよ」

「無理かどうかは鏡見てから言え」

「相変わらず無自覚発揮してんな〜」

「そこがまた可愛いんだよね、立夏くんは」



可愛いのはお前だよ。



不意にどこからか小さな足音が聞こえて来る。
HRを終えたら放課後だから他のクラスの生徒達が動き出したのかもしれない。
しかしその音は俺の後ろでピタッと止まった。



「君が、藤岡くん…?」



その声に振り返ると、そこにいたのは見たことのない小柄な男子生徒だった。



「そうだけど?」



俺の返答に男子生徒の反応は薄かった。
つまり俺が「藤岡立夏」だと知っていて話し掛けて来たことになる。



「何でお前がここにいる?」



刺々しい声が降って来たと同時に頼稀は俺の姿を隠すように男子生徒と対峙する。
傍にいた希と葵も怪訝そうな顔をして男子生徒の様子を窺っていた。



「藤岡くんに話があって来ました」



話?



「用件があるならここで済ませろ」

「大事な話だからここではちょっと…。一緒に来てくれないかな?」

「………その前に、アンタ誰?」



すると男子生徒は驚いたように目を見開いた。



「……僕のこと、知らないの?」

「知らないから聞いてるんだけど」



そもそも知ってたら聞かねぇよ。



「立夏くんこの人は…「葵」



頼稀は葵の言葉を遮って首を左右に振る。



「必要ない」

「え、でも…」

「立夏はこう見えても多忙な身だ。コイツに割く時間はない」

「まあ、多忙なのは間違いないよね〜」

「分かったらとっとと帰れ」



頼稀はあからさまに男子生徒を邪険に扱う。
無愛想で淡白な性格の頼稀だがここまで嫌悪の感情を表に出すのは珍しい。覇王以来だな。


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