歪んだ月が愛しくて1
次の瞬間、悲鳴にも似た黄色い声が俺の鼓膜を直撃した。
その声に何事か思い慌てて振り返ると目の前の光景に自分の目を疑った。
「え、リカ…?」
そこに映し出されたリカは俺の知っているリカじゃなかった。
何でこんなことになっているのか分からない。
唯一理解出来たのはスクリーンの中でリカと尊が戦っていると言うことだけ。
「り、かくん…?」
「……わお」
「………」
2人の動きが速くて目で追えない。いや、見えない。
何発攻撃が当たっているのかもスクリーンでは判別出来なかった。
『っと、チビは足まで短くて大変だな』
『はぁ!?』
……あ。
そう思った時には既に遅くスクリーンの中のリカが動き出した。
『ぶっ飛ばす!』
あちゃ、キレちゃった。
まあ、あれは誰が言われてもキレるよね。てか尊も態と挑発してるよな?
一度は躱されたリカの攻撃。
しかし躱された右足を軸に身体を反転したリカが左足で尊の顔面を狙う。
「危ないっ!」
尊は間一髪のところでリカの攻撃を躱した。
でも躱し切れなかった尊の頬には薄らと鮮血が滴っていた。
その光景に親衛隊の連中が黙っているはずもなく。
「キャー!尊様のお美しい顔に、ち、ちち血がぁ…!?」
「尊様に攻撃するなんて信じられない!最低!」
「退学だ退学!」
「そんな奴ボコボコにしちゃって下さい尊様ぁ!」
いつもなら自然と耳に入って来る不快な甲高い声が今は全くと言って気にならない。
それくらいスクリーンに映し出されるリカから目が離せなかった。
「ス、ゲー…」
無駄のない動きに軽い身のこなし。
普段の授業から運動神経が良いとは思っていたけどまさかこれほどまでとは思わなかった。
尊が強いのは知ってる。
昔から護身術とか色んなの習ってたし、神代財閥の後継者に相応しい人間になるために本人は言わないけど見えないところで沢山努力していたのも知ってるから。
自分の身を守るため、神代の立場を利用する人間を蹴散らすためにも尊にとって「強さ」は必要なものだった。
実力は勿論のこと経験だって積んでる。
何たってこの学園で尊に刃向う連中を力で黙らせて来たんだから。
そんな尊と互角に……いや、互角以上に戦っているリカに驚きを隠せない。
何でリカはそんなに強いの?
これが本当に俺の知ってるリカなの?
「……違う」
思い知らされた。
俺はリカのことを何も知らない。
『俺にはアイツを守る義務がある。お前とは違ってな』
何も…。
「未空くん、口開いてるよ」
「えっ!?」
「涎もな。鼻の下伸ばして見惚れ過ぎだっつーの」
「でも未空くんの気持ちも分かるよ!立夏くん本当格好良いもん!」
「だな」
「……うん」
格好良い。それは間違いない。
リカに見惚れてたのは無意識だけど。
でも俺はのんちゃんとアオの言葉に素直に頷けなかった。
チラッと横の人物に視線を向けると、頼稀だけは眉を顰めながら「あのバカ…」と言葉を漏らしていた。