歪んだ月が愛しくて1
暫くして尊が大講堂に戻って来た。
「………お帰り」
「あ?何ガン飛ばしてんだよ?」
「何でリカが尊の専属なんだよぉ…」
「ああ、庶務のことか。俺はゲームに勝っただけだ。今更文句言ってんじゃねぇよ」
「文句じゃない!納得いかないだけ!」
「同じじゃねぇか」
尊の登場に大講堂が騒めき立つ。
いつもならこんな大衆の面前に現れることないのに珍しい。
そんなことを考えている横で尊はキョロキョロと周囲を見渡していた。
誰かを捜してる?
「ほら見て、尊様だよ!」
「本当だ!こちらに来られるなんて珍しい!」
「でもどうされたのかな?誰か捜してるみたいだけど…」
尊の一挙一同に誰もが注目している。
聖学の生徒だけじゃない。神代の後ろ盾欲しさに大企業のトップ達が高校生のご機嫌取りに必死なんだ。
神代の名前は勿論のことその美貌を独り占めしたくて誰もが尊とお近付きになりたいと考え虎視眈々とその機会を狙っている。まるでハイエナだ。
そのくらい神代財閥の看板はでかくて重い。
きっと俺なんかには想像も出来ないほどの重圧を尊は生まれた時から背負っているんだ。
良いこともあれば辛いこともあったと思う。……いや、辛いことの方が多かったはずだ。
もし俺が尊の立場だったら…、想像しただけで堪えられない。
人間の汚い部分とか見え透いた魂胆に反吐が出る。
やっぱり無理だ。
俺は、尊にはなれない。
ただ聖学の生徒で不用意に尊に近付く者はいない。
覇王親衛隊の制裁が怖いのも理由の一つだと思うけど、尊自身が醸し出す冷たくて威圧的なオーラが近付くことを躊躇わせていた。
闇よりも深い黒曜石の瞳に見つめられたら一溜まりもない。
それが分からないお偉いさん達に比べたら覇王親衛隊の方が物分かりが良くて扱い易いからいいけど、だからってリカに手出すのは見過ごせない。
「おい、アイツはどうした?」
「アイツ?」
「立夏に決まってんだろう。まだ帰って来てねぇのか?」
「まだだけど………え、えっ!?」
「何どもってんだよ?」
「だ、だって、今“立夏”って…」
「それがどうした」
「………」
さも当たり前のようにリカの名前を呼ぶ尊に俺は驚きを隠せず言葉を失った。
「ゲームに勝ったくせに…」
「関係ねぇよ。俺が誰をどう呼ぼうと俺の勝手だ」
それゲームの意味ないじゃん。
そう言ってやろうと思ったけど殴られそうだからやめた。
……いや、尊のことだからこうなることも想定していたのかもしれない。
(素直じゃないな…)
俺の見入るような視線がうざったかったのか、尊は明らかに不機嫌そうに眉を顰めて「何か文句あんのか」と凄んで来た。
えっ、もしかして照れてる?照れてるの?
あの尊が?
「うっそん…」
うわぁ、マジか。
こんなみーこ見るの超レアじゃん。
……ダメだ、顔がにやける。