歪んだ月が愛しくて1
それから暫くして俺達は学生棟に辿り着いた。
一時はどうなるかと思ったが無事辿り着いたから良しとしよう。終わり良ければ全て良しだ。
「では、また午後の部で」
「あ…」
そう言ってアゲハは俺の手の甲に唇を落とした。
その仕草があまりにも堂々としていて怒るのも忘れてしまった。
「珍しく大人しいんだね?」
「いや、その…」
でも言わなきゃいけない。
「ん?」
「あ、あー…」
それなのに言葉が出ない。
「……何でも、ない」
情けない。
しっかりしろよ、男だろう。
不意にアゲハの手が俺の頭に乗る。
「忘れないで欲しい。僕はいつだって君の味方だよ」
「っ、」
それだけ言い残してアゲハは北棟の方へ去って行った。
何とも言えない感情が込み上げる。
それに気付かないふりをしてその後ろ姿に吐き捨てる。
「……気障な奴」
でも悪い気はしない。
だからこそ何も返せないことが申し訳なかった。
アゲハはちゃんと言葉にして伝えてくれたのに俺はたった一つの感謝の言葉すら言えないなんて本当情けない。
でもいつかはちゃんと伝えたいと。
照れ臭くてもちゃんと言葉にしなければ伝わらないこともあるから…。