歪んだ月が愛しくて1



「んー…」



俺は自室に戻って来るなりブレザーを脱ぎ捨ててリビングのソファーに寝転んだ。



「疲れた…」



たかがオニごっこ、されどオニごっこ。
何事も限度って大切だと思う。いやマジで。
無駄に広い敷地内でのオニごっこは終わりがないからやっちゃいけないよ。遭難しろって言ってるようなもんだ。
アゲハが迎えに来てくれなかったらどうなっていたことか。



「ふぁ…」



欠伸が止まらない。
昨日は未空のことがあってあんまり寝付けなかったんだ。
午後の部も何かやるみたいだし少しだけ寝て置こう。



ウトウトする瞼が落ちる直前、遠くの方でバタバタと足音が聞こえる。
段々と近付いて来る足音に瞼を開けようとした瞬間、バタンと大きな音と共に名前を呼ばれた。



「リカっ!?」



……じゃなくて、叫ばれた。



「煩ぇな。人が折角寝ようとし……ぐぇっ!!」



突然の訪問者に頭が覚醒する。
未空は勝手に人の部屋に入って来るなりソファーで横になっている俺に覆い被さるように抱き付いて来た。



「リカぁぁあああ〜!!」

「え、何、意味分かんないんだけど…」



頭上から荒い息遣いが聞こえる。



「未空…?どうしたの?」

「どうしたのじゃないっ!俺がどんだけ心配したと思ってんだよ、このバカリカ!」



そう言うと未空は更に強い力で俺を抱き締めた。
まるで離さないと言わんばかりに上から体重を乗せるから身動きが取れない。
最初はただの暴挙かと思ったので文句を言ってやろうと思ったが、俺を抱き締める未空の身体が震えていたことに気付いた。
そんな未空の背中に手を回そうとした時、突然未空が顔を上げた。



「何ですぐ戻って来なかったんだよ!?」

「え?」



何のこと?



「オニごっこが終わったら大講堂に集合だって九ちゃんが言ってたじゃん!それなのに何でリカはここで暢気に寝てんのさ!?」

「あー…」



言えない。

また迷子になったなんて言ったら絶対に笑われる。



「ご、ごめん…」

「……スゲー心配した」



ムスッとした表情で頬を膨らませる未空が態と体重を掛けているのが分かる。
子供みたいな未空の仕草に思わず苦笑する。



「……何笑ってんだよ。俺怒ってんだかんね」

「うん、ごめん」



未空が心配してくれてるのは分かる。

でもそれが何とも言えない感覚でむず痒い。


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