歪んだ月が愛しくて1
不意に御手洗は教室の中央に視線を向ける。
そこにはクラスメイトに囲まれて笑顔を見せる立夏の姿があった。
「立夏…」
下手くそで未だぎこちない笑顔だった。
でも偽物じゃない。どんなに悲しくても涙が出て来なかったあの頃の立夏ではなかった。
「過保護もいいけど少しは辛抱することも覚えたら?肩に力が入ったままだといつか自由に飛べなくなるよ」
「……どう言う意味だ?」
「自分のことを疎かにして他人のことばかり気にしてたら世話ないでしょう。足元掬われてからじゃ取り返し付かないよ」
「大きなお世話だ。俺は何も見失わない」
「見失わない?ハッ、嘘だね。今の君は藤岡のことしか見えてないよ」
「あ?」
「君は“B2”の人間でしょう。守る者が沢山あるんじゃないの?九條院先輩も華房達も、そして佐々山のことも…」
「っ、何で…」
「そんなことはどうでもいいよ。佐々山が誰であろうと僕には関係ないしね。でも君に自滅されたら誰があの珍獣共の面倒を見ると思ってるの?僕は嫌だからね。仙堂だけでもうざいって言うのに他のまで面倒見なきゃいけないなんて僕の手には負えないよ」
御手洗はやれやれと言わんばかりに態とらしく溜息を吐く。
「御手洗…」
御手洗はそれ以上希のことについて触れなかった。
アゲハさん達のことならまだしも何で希のことまで…。
「僕の手を煩わせないためにも君には壊れてもらっちゃ困るの」
ビシッと、御手洗は俺に向けて指を差す。
「藤岡なら大丈夫だよ」
その瞳はどこか自信に満ちていて力強かった。
「何を根拠に…」
御手洗はそっと腕を下して徐に立夏を見つめる。
「藤岡は自分から一歩踏み込むことを決めた。君が思ってるより藤岡はずっと強い奴だよ」
「強い?立夏が…?」
御手洗の言葉に耳を疑った。
「そうじゃなかったらあんなこと言えないよ」
「立夏が、強い…」
ずっとそのままでいいと思っていた。
もう二度と傷付いて欲しくなかったからこれ以上誰の目にも触れないように俺達で守ろうを誓った。
それなのに…、
「それに藤岡を選んだのは尊様だよ。尊様の名に傷を付けないためにも藤岡にはしっかりしてもらわないと困るんだよ」
「ブレねぇな」
「当然」
変わることを望んでいなかったわけじゃない。
少しでも現状が良くなるなら…、そう望んだ時もあったが余計なことをしてアイツの過去に触れることだけは避けたかった。
その考えは今も変わらない。立夏のことを考えたら現状維持が一番良いに決まってる。
でも、お前は違うのか?
変わりたいのか?
その一歩を本当に踏み出してもいいのか?
そんなことをしたらまたあの日を繰り返すんじゃないのか?
だとしたら俺は…―――。
御手洗の言葉に頷けないまま輪の中心にいる立夏を見つめることしか出来なかった。