歪んだ月が愛しくて1



「……まさか、本当に踏み込んで来るとはな」



すると陽嗣先輩は観念したように両手を上げた。



「すいませ、……うわっちょっと!」

「謝んなよ」



ワシャワシャと、陽嗣先輩が俺の髪を掻き乱す。
ふと見上げると彼の目は先程までの無機質なものではなかった。



「嬉しかったぜ」



嬉しい?何が?



陽嗣先輩のために言ったんじゃない。
ただ白樺の想いを否定して欲しくなかった。
白樺の想いをなかったことにして欲しくなかっただけなのに。



「それにりっちゃんの説教なんて超レアじゃん」

「レア?」

「いいなぁ。ヨージだけ狡い…」



そう言って横に座っていた未空が俺の肩にコテッと頭を乗せた。



「ねぇ、俺のことも叱って?」

「………ドM?」



え、ドン引きなんだけど。



「違くて!俺もリカに説教されたいの!もっと怒って欲しいの!」

「どこも違くないじゃん」



やっぱりドMじゃん。



「おいおい、猿は猿でもマゾ猿かぁ〜?」

「誰がマゾ猿だ!リカに説教されたからって良い気になるなよエロガッパ!」

「いいだろう!羨ましいだろう!」

「うっぜー!」



またやってるよ。

本当に仲が良いな、煩いけど。



「立夏くん」

「はい?」



九澄先輩の声に視線を上げると。



「ありがとうございます」

「……何が、ですか?」



俺の問いに九澄先輩はそれ以上何も言わなかった。
でも俺を見つめる九澄先輩の目は優しくて穏やかで何だか喜んでいるように見えた。



ベランダに続くガラス窓から日の光が柔らかく室内を包み込む。

本当に木漏れ日のような人だ。



そんな俺達の姿を見て会長は満足げな表情を浮かべてカップに口を付けた。


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